3カ月間、問いと向き合い続けてきたプロジェクトメンバーたちの晴れ舞台、QWSステージ。今回は10月24日に開催されたQWSステージ#20の様子と、SHIBUYA QWS Innovation協議会(以下「SQI協議会」)による厳正な審査の結果、見事最優秀賞・優秀賞を受賞した4プロジェクトのSHIBUYA QWS(以下QWS)で見つけた価値や、次のQWSステージへ向けた意気込みをお届けします。
テキスト=髙木 香純・植村 麻理奈・邑田 龍成 編集=守屋 あゆ佳 写真=池原 瑠花
QWSステージとは、3カ月に一度、QWSに集うプロジェクトメンバーがそれぞれの活動の中で見つけた「可能性の種」を放つ場です。QWSステージ当日はQWS内に舞台が設営され、発表するプロジェクトは、3分間で各々の活動成果についてピッチを行います。
QWSステージ#20では14プロジェクトが登壇し、各々の成果を発表しました。SQI協議会の審議のもと、全14プロジェクトの中から「マイノリティ研究所」がSQI協議会最優秀賞に選ばれました。また、SQI協議会優秀賞として「MEMORI」、「Child Play Lab.」、「comodo.」の3プロジェクトがそれぞれ受賞し、計4チームがQWSでの活動期間の延長の支援を受けることが決定いたしました。
キーノートトーク
QWSステージでは、各分野の第一線で活躍している方をゲストにお招きし、講演していただく「キーノートトーク」を実施しています。
今回のゲストは株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹さん。開業前から、問いの感性を耕すためのプログラム「QWS CULTIVATION PROGRAM」を考案いただくなど、様々なかたちでQWSに携わっていただいている安斎さんに、記念すべき第20回目のキーノートトークとして「“似合う問い”を探し続ける」というテーマでお話しいただきました。
――安斎勇樹さんのキーノートトーク
ファッションが変わるように、人生の探究テーマは変化する
皆さんは自分の「似合う服/スタイル」は確立されていますか?僕は昔からファッションが好きなのですが、20代の頃にすごくハマっていた服やブランドが、30代になってしっくりこなくなったと感じた時がありました。純粋に飽きてしまったり、TPOに合わなくなってきたり。人生の変遷の中で、自分に似合うファッションが変わっていくように、自分の関心ごと、つまり「問い/人生の探究テーマ」も年齢や環境によって変わってくるものなのではないでしょうか。
僕自身、振り返ってみると5〜10年単位で探究テーマが変わっています。20代半ばは「ワークショップデザイン」に夢中でしたが、30代半ばはワークショップの課題設定でもある「問いのデザイン」に興味があるのだと立ち返りました。今は自身の会社や大企業の組織づくりのコンサルをさせていただく中で「挑戦する/冒険する組織」に興味が移ってきています。ワークショップをひたすら探究していた頃、「経済ってこうなっているのか」「企業はこれを求めているのか」と世界の解像度が上がっていきました。同時に、すごく興味深いワークショップとどうにも熱量が沸かないワークショップが見えてきて、自分がときめくものがより明確になり、自分自身の解像度も上がってきたんです。問うことで世界が広がったり、世界を見つめることで自分がより形作られる。「問い/探究テーマ」とは、「”自分”と”世界”をつなぐ仮説的なメディア」と言えそうです。
似合う「問い」を探す
ファッションも、自分を表現するメディアのようなものです。似合う服は人それぞれ違うし、流行りの服が自分には似合わないこともある。問いも同じで、自分にしっくりくる問いをどうやって見つけるかはとても重要です。今の自分の湧き上がる衝動や違和感を出発点にしながら、ちょっとだけ背伸びをするような、少し未来の自分に連れて行ってくれるような問いを選んでみてください。こういう問いを探し続けることが人生であり、キャリアデザインなのかもしれません。
とはいえファッションと同じように問いにも「ハレとケ」、つまり「ONとOFF」があってもいいと思います。大きな舞台で語るちょっと余所行きの「問い」と、リラックスしている時にふと浮かぶようなカジュアルな「問い」のどちらもあって良い。問いは常に仮説であり、メディアであり、服と同じように変化するものです。今、自分が立てている問いに固執せず、常に自分に“似合う問い”を探究してみてください。
登壇者略歴(安斎 勇樹 氏)
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 客員研究員
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論について探究している。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』パーソナリティ。主な著書に『問いのデザイン』『問いかけの作法』など多数。集大成となる最新刊『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』2025年1月発売予定。
受賞者インタビュー
研究者と当事者で共創する、マイノリティ研究の未来
プロジェクト名:
マイノリテイ研究所
西岡春菜さん、松田日向子さん、早川結子さん、杉本碧さん
マイノリティ研究所は、マイノリティの方々が直面する問題を当事者と一緒に考え、社会全体がマイノリティに対する理解を深めることを目指しています。各分野のマイノリティ研究者や産業との連携を促進するマッチングシステムの構築、理論を社会実装するプロセスのサポートなどを行い、若い研究者に理論と実践の両側面から社会課題に取り組む機会を提供していきます。
新しい学問「マイノリティ学」の創造へ向けて
私たちは従来の研究アプローチを一新し、当事者と研究者が共に歩む新しい研究スタイルの確立に取り組んでいます。当事者を研究対象として見るのではなく、課題解決のプロセスに参加してもらうという独自のアプローチを通じて、当事者と共に創り上げる「研究」を実践しています。
修士課程2名、学士課程2名で構成される私たちのチームは、それぞれの原体験が活動の原動力となっています。企業インターンシップを通じて、意欲に満ちた障がい者がいる一方で、施設や病院での就労機会を得られていない現実に直面したメンバー。優れた研究が社会実装されず、社会課題が解決されない状況に疑問を感じたメンバー。発達障害により学校を中退した経験から、Yes/Noを自由に表現でき、自分の居場所を作れる人を増やすため言語聴覚士を目指すメンバー。こうした多様な課題意識と解決への情熱が、私たちの活動を支えています。
QWSでの3ヶ月間では、FC東京コミュニケーター様とのご縁をいただいたり、NTTデータ様とのコラボレーションを実現するなど、多くの方々との繋がりが生まれました。今後も当事者目線での共創を大切にしながら、研究を通じた社会変革に取り組んでいきます。これは単なる障がい者雇用や支援の枠を超えた、新しい価値創造への挑戦です。ゆくゆくは「マイノリティ学」という新しい学問分野の確立を目指しています。
12月8日には、宗教、ジェンダー、障がいなど、様々な社会的マイノリティを研究対象とする若手研究者100人が集うワークショップを開催するなど、新たな研究の可能性を探る対話の場も用意していきます。今後のイベントへの皆さまのご参加も、お待ちしています!
大切な人との繋がり、その先にある「新しい文化」を目指して
プロジェクト名:
MEMORI
髙杉 涼平さん
MEMORIは、ネガティブに捉えられがちな「別れ」や「死」と向き合うことで、今をよりよく生きるためのきっかけを創出するプロジェクト。家族や友人、恋人など大切な人たちとの繋がりを再確認し、それぞれへの思いを『ラストレター』として未来に書き残すことが、新しい文化として社会に広がることを目指しています。
QWSは新しい世界と社会を教えてくれる場所
QWSチャレンジに応募したのは、QWSのコンセプトに共鳴したから。その当時はプロジェクトとしてもう一歩前に進むべきだと感じてメディアへの露出を始めたタイミングだったこともあって、応募を決意しました。自分のペースを保ちながらも、共に成長できるコミュニティだと感じたことも大きな要因の一つです。
MEMORIのテーマである「死生観」は、人によって関心度に大きく差が出るテーマだと思います。そんな中、QWSで毎月開催されている「スクランブルミーティング」では、各分野のフロントランナーの方々に様々な目線で意見をいただくことができました。文化を創っていくためには、関わる人たちそれぞれの立場や思いを大切にしながらも、広い視点でコミュニケーションしていくことが大切だと実感しました。また、この活動を持続していくためにビジネス的な観点や資金調達も欠かせないという気づきも生まれました。これまで以上に、こだわりとスピード感をもってプロダクトを作っていきたいという気持ちが強くなりました。
QWSは社会との接点を提供してくれる場所。新しく出会った人たちとの会話によって視野を広げられるし、世界がアップデートされていくのを感じます。次の3ヶ月間では、問いを様々な切り口から広げることを意識し、新しい可能性を試したいと思っています。QWSが提供する機会を最大限に活用し、多様なユーザーとの関わりを深めていきたいです。
あそびを通じて、病気の有無に関わらずこどもたちのワクワクが溢れる社会を目指して
プロジェクト名:
Child Play Lab.
田中 暢也さん
Child Play Lab.は、病気を抱えるこどもたちが、自分らしく生きることができる社会を目指し、療養体験・療養環境に特化したあそびのブランド「POCO!」を運営しています。「さぁ、ベッドの上から冒険を始めよう!」を合言葉に、現在は全国7つの病院と連携し、長期闘病生活を送るこどもたちを対象とした、好奇心や創造力を引き出す院内プログラム「アドベンチャー BOX」の展開や、ワークショップの開催を行っています。
3度目の採択を経て、「こどもたちの可能性を広げる」あそびの未来とは?
QWSで活動を始めて半年が経ちました。活動当初は、院内で過ごすこどもたちに寄り添うため、ゼロからプログラムを構想する段階からのスタートでしたが、現在では「アドベンチャーBOX」を200人以上のこどもたちに届けることができました。これまでに、さまざまな願いや思いを持つこどもたち、そのご家族、そして医療関係者との出会いを重ねる中で、私たちは新たな問いに直面しています。「本当にPOCO!はこどもたちに寄り添えているのか?」「あそびの魔法は院内だけで途切れてしまっていいのか?」
これらの問いは、私たちが目指す未来を見据える上で欠かせない視点です。こどもたちの療養環境を取り巻くすべての関係者に耳を傾け、一緒に変化を起こしていくために、POCO!にしかできないアプローチを模索し続けたいと思います。
2月で1周年を迎えるあそびのブランド「POCO!」はまだまだ道半ばですが、こどもたちを「支援」するのではなく、一緒に目線を揃えて「共に歩む」頼もしい存在として、より多くのこどもたちのワクワクを引き出せるような活動を続けていきます。
社会全体を巻き込んだ子育て支援の実現を目指して
プロジェクト名:
comodo.
山崎 玄稀さん
comodo.は単なる子育て支援サービスではなく、社会全体を巻き込んだ子育ての仕組み作りにチャレンジするプロジェクト。子育てにおいて、医療現場では親子に対して多くの支援が可能ですが、一方で家庭での子育て支援には限界があることが課題として挙げられています。そこで少子化や社会の変化に対応し、医療の枠を越えて子育てを支援する新しい社会の実現を模索しています。
実証実験で見出した手応えと課題
前回のQWSステージ#19に向けた3カ月間では、プロダクトの方針やターゲットをパパに絞るなど、私たちの中で大きな方向転換となりました。QWSステージ#20に向けての3カ月では、パパをメインターゲットに据えた新しい支援サービス「Papa voyage」を実施。助産師さんなどの協力のもと行われた実証実験イベントでは、パパさんたちのリアルな声を聞くこともできました。
前回のQWSステージではアイデアとして描かれただけのプロダクトが、今回イベントとして実現できたことはプロジェクトにとって意義のある出来事でした。一定の手応えを得られたものの、サービスの収益性や事業としての構造が明確ではないことが課題として浮き彫りになりました。QWSコーポレートメンバーの方々との対話からも、具体的な提案を形にするにはさらなる検討が必要だと実感しています。プロジェクトメンバーは皆、研修医などそれぞれ本業を持つ中で活動を続けています。そのため、進行スピードは決して早くはありませんが、本業ではないからこそ、課題をじっくり深掘りしながら取り組むことができています。
一方で、自分たちでは期限を設けることが難しいからこそ、3カ月ごとに行われるQWSステージが活動を振り返る節目となり、次の目標を設定する良いタイミングになっています。時間的な強制力が働くことが、プロジェクトの前進を促していると思います。次の3カ月では、クリニックでの実証実験を行い、プロダクトをさらにブラッシュアップすると同時に、ビジネスモデルの再構築に取り組む予定です。社会課題の解決に向けて、私たちの挑戦はまだ始まったばかり。子育て支援の新しいカタチを提案していきたいと思います。
「QWSステージ#20」
キーノートと20プロジェクトのピッチ映像はこちら
「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を募集しています
2024年11月から活動を開始したQWSチャレンジ第21期のメンバーは、年齢も領域も様々。新しい仲間、新しい自分、新しい世界。どんな出会いが待っているのでしょう。それぞれのプロジェクトの問いは、どのように磨かれ、放たれていくのでしょうか。次回のQWSステージ#21は、2025年1月末に行われます。QWSから生まれる「可能性の種」をお楽しみに。
現在、QWSチャレンジ第22期を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
QWSステージ#20登壇プロジェクト一覧
1. Academimic|学術研究はクリエイティブの力で渋谷の街に溶け込むか?
2. biblio marker|本の「しおり」は人生の「しおり」になるのか?
3. comodo.| 両親の関係が子どもに与える影響はどれだけ大きいのか?
4. mokemoke|”もけもけ”のお茶碗で食べるご飯はおいしいのか?
5. シャウト!|子どもには夢を描けと言うのに、なぜ大人は夢を持っていないのか?
6. リビングラボ from Death| 「死というテーマ」をどこまで豊かに想像し、よりよく生きるためのツール・サービスを産官学民で創発できるか?
7. 情熱に満ちた子供達|思春期の特有の曖昧な感情をサブカルチャーを用いて言語化するには?
8. Polaris|どうすれば初心者が半年でWeb3エンジニアとしての基礎を身につけ、プロを目指すきっかけを得られるか?
9. まなびぱれっと|自分らしい道を見出そうともがく学生が、挑戦をカタチにしていく場づくりとは?
10. ストローマガジン|アートは民主化できるか?
11. マイノリテイ研究所 マイノリティ研究促進プログラム制作|障害当事者同士が助け合うことで、障害者が生きやすい社会を作れるのか
12. サブスクライン|スキップボタンを押したくなる広告に、未来はあるの?
13. Child Play Lab.|心から湧き出てくる願いや目標が生きる力になりうるのか?
14. MEMORI|自分の死は「誰に」「どうやって」伝わるのだろうか?