3カ月間、問いと向き合い続けてきたプロジェクトメンバーたちの晴れ舞台、QWSステージ。今回はQWSステージ#12の様子と、SHIBUYA QWS Innovation協議会(以下「SQI協議会」)による厳正な審査の結果、見事優秀賞・最優秀賞を受賞した4プロジェクトのSHIBUYA QWS(以下QWS)で見つけた価値や、次のQWSステージへ向けた意気込みをお届けします。
テキスト=中島貴恵・秋山和哉・山田安珠 編集=髙木香純・小山田佳代 写真=池原瑠花
QWSステージとは、3カ月に一度、QWSに集うプロジェクトメンバーがそれぞれの活動の中で見つけた「可能性の種」を放つ場です。QWSステージ当日はQWS内に舞台が設営され、発表するプロジェクトは、3分間で各々の活動成果についてピッチを行います。
10月27日に開催されたQWSステージ#12では17プロジェクトが登壇し、各々の成果を発表しました。SQI協議会の審議のもと、全17プロジェクトの中から「Prairie Card」がSQI協議会最優秀賞(企業賞であるNTTデータ賞とのダブル受賞)に選ばれました。また、SQI協議会優秀賞として「清走中」、「ALL HOME」、「neco-note」の3プロジェクトがそれぞれ受賞し、計4チームがQWSでの活動期間の延長の支援を受けることが決定いたしました。さらに企業賞として味の素賞を「バディトレーラー」が受賞しました。
キーノートトーク
QWSステージでは、各分野の第一線で活躍している方をゲストにお招きし、講演していただく「キーノートトーク」を毎回実施しています。第12回のゲストはNuméro TOKYO創刊から編集長 / ファッション・ディレクターとして携わり、常に道を切り開いてきた田中杏子さん。ご自身の活動の原動力や、「問い」への向き合い方についてお話していただきました。
――田中杏子さんのキーノートトーク
諦めないこと、楽しむこと
編集長としてNuméro TOKYOに創刊から携わり、今年で16年目になります。創刊する際、「毒抜きされたモード誌はもういらない」という言葉をつくったんです。ファッションとはアイテムの話ではなく、スタイルの話なのだと伝えたかったから。
この16年の間にもう無理かなと思うことが何度もありましたが、その度に「諦めずに駒を少しでも前に進めていくことで、必ず乗り越えられる」と感じてきました。全ては継続なので、継続していくためにはとにかく粘る。諦めない。これしかないんですよね。 Numéro TOKYOは16年間、川久保玲さん(コム デ ギャルソン)に取材をお願いし続けて、ずっと断られていました。それでも諦めなかった結果、Numéro TOKYO 161号でついにインタビューが実現したんです。
ただ、私たちの世代は頑張りや忍耐という言葉が好きだけれど、今の時代は、とにかく楽しめるかどうかがカギ。楽しんで取り組むことで道が開け、周りを巻き込むことができ、その結果、継続に繋がっていくと最近すごく感じています。
メッセージを届け、問い続ける
問いというのは、常に人生に深みを与えます。自分で自分の問いの答えを見つけたときには一歩先に進んでいるんです。その積み重ねで、5年、10年、15年と、振り返ったら継続していたということだと思います。
今日ここにいる皆さんも、なぜうまくいかないのか、なぜ理解してもらえないのかと感じることがあるかもしれません。 それでも、自分が信じていることは自分だけでも信じ続けてください。すると賛同者が2人、4人、8人と増えていき、気がつくと何年も継続している問いに変わっていくのではないでしょうか。QWSで活動する会員の皆さんも素晴らしい問いをたてていますので、これから先もご活躍を楽しみにしています。
登壇者略歴(田中杏子 氏)
大阪生まれ。イタリア・ミラノに渡りIstitute MarangoniとIstituto Secoliでファッションを学ぶ。卒業後、第一線で活躍するファッション・エディターに師事、雑誌や広告などに携わる。帰国後は海外での経験を活かし、スタイリストとして活動。「流行通信」や「ELLE JAPON」を経て、「VOGUE NIPPON」創刊準備より編集スタッフとして参加。シニア・ファッション・エディターを務める。2003年より資生堂「Maquillage」キャンペーンのファッション・ディレクタ−を2年間兼務するなど広告の分野でも活動。2005年11月より Numéro TOKYO編集長に就任し、1年半の準備期間を経て2007年2月に創刊、現在にいたる。編集長としてのみならず、同誌ファッションページのスタイリングや、他ブランドのアドバイザーやディレクション、講演なども行う。2009年11月より東京ファッションウィークの冠スポンサーとなったRAKUTEN FASHIONのアドバイザーに就任。2021年より、新プロジェクトRabbitonを立ち上げる。著書 『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ刊)。
受賞者インタビュー
社会を変えるエンターテインメントとして、ゴミ拾いの可能性を探り続けたい
プロジェクト名:
ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」
北村 優斗さん
「清走中」は、ゴミ拾いにゲーミフィケーションを融合したゲーム感覚ゴミ拾いイベント。ポイ捨てされたゴミがアイテムに変わり、街全体がゲームエリアとなるような世界観を演出することで“楽しさ”を入口に、ゴミ問題について考える機会を提供します。
ゴミ拾いの面白さは世界共通!原点に立ち返った時間が成功に繋がった
今回で3回目の受賞となり、目標であった1年間QWSチャレンジを続けることができて、とても嬉しいです。振り返ると、7月まではビジネスをしている実感よりも、暗闇の中を手探りで進んでいるような感覚があったんです。8月に高校時代からお世話になっている方とお話した時、「清走中は社会を変えるエンターテインメントなんだ」と再認識し、アクセルを踏み込むことができました。その結果、9月に上越市名立区で開催した「清走中 上越編」を成功させることができ、さらにはゴミ問題の実態調査のため、フィリピンにも行きました。
フィリピンでは現地の子どもたちを対象に「Garbage Collection Battle(略してGCB)」を開催。言葉や文化は違っても、ゴミ拾いという行為そのものの面白さが、100%子どもたちに伝わっていることを実感しました。このタイミングでゴミ拾いの面白さを再認識できたことは、僕にとって大きな自信になりました。可能性が広がっていくのを感じた3カ月間でしたが、今後も清走中の可能性を渋谷から世界へ広げていきたいと思います。
目指すのは、子どもたちに幸せを還元できる環境づくり
プロジェクト名:
ALLHOME
吉住海斗さん
社会的養護に特化した求人サイトの運営や、社会的養護の魅力づくりなど採用に関する企画を行うプロジェクトです。離職率が50%を超えるとされる児童養護施設。ALLHOMEは社会的養護施設で働く人が幸せに働ける世界をつくることで、そこで暮らす子どもたちの幸せをつくっていくことを目的としています。
プロジェクトの起点は実体験。あらためて問いと向き合い続けた3カ月間
プロジェクトは「社会的養護の子どもたちの可能性は、そこで、はたらく人の幸せを通じて広げることができるのか?」という問いからスタートしました。僕らは児童養護施設で働く人たちが働きやすく、子どもたちを支援しやすい環境を整えることで、連鎖的に子どもたちも幸せになっていくのではないかと考えていました。しかし、問いと向き合っていくうちに施設で働く人へのアプローチだけでなく、子どもたちが自分の将来について意志を持つきっかけをつくることも、自立へのプロセスでとても重要ではないかと思うようになったんです。この二つの問題を持続的かつ同時に解決するために、僕たちに何ができるのか?最初に掲げた問いはこの3カ月間でめまぐるしく変化していきました。
QWSステージ後、ピッチを見てくれた方から「施設を訪れてみたい、子どもたちに会いたい」という言葉をいただきました。ピッチを聞いて興味を持ってくれたこと、会いたいと言ってくれたことがとても嬉しかったです。これからALLHOMEは、社会と社会的養護施設の橋渡し的存在になっていきたいと思っています。社会的養護や児童養護施設といっても、その言葉の意味を知らなかった人たちも多いはず。だから、まずは施設について知ってもらうことから活動を進めていく予定です。
保護猫団体の持続性を高める
プロジェクト名:
neco-note
黛 純太さん
neco-noteは、「猫のためになにかしたい、でも“できない”」そんな想いを抱える人が会員登録を行い、気に入った猫「推し猫」の新しい家族探しを応援できるwebサービスです。月会費や課金額の一部(最大96%)が、推し猫が所属する保護猫団体に寄付されます。「推し活」を通して保護猫団体の“自続可能性”を高め、保護猫活動の関わりしろをつくっていきます。
猫と人が一緒に暮らしていく社会を作る
QWSステージまでの3カ月間は、地盤をしっかり固めることに注力してきました。その中で一番大きかったのは、ディレクターが加入したことです。ディレクターがさまざまな仕事を巻き取ってくれるようになったことで、抱えていた他の課題や、新たにトライしたかったことに取り組みやすくなりました。例えば、すでに関係を築いていた保護猫団体や会員の方々のアクティブ率をあげていくためのブランディング・情報発信など、すぐには成果に結びつかないことにも投資できるようになったんです。
地盤がしっかりしたからこそ、サービスや自分自身を世の中に発信できる機会も多くなりました。3カ月でこのように加速できたのは、QWSがアクセラレーターを含有しているコミュニティであることも大きいと思います。
現在、QWSで出会った地方自治体の方達とまちづくり×保護猫活動といった取り組みも仕込み始めているので、コラボできる自治体がさらに増えると嬉しいです。また、最近は「保護猫のひと」という形で講演依頼なども増えているので、メディアでの発信も継続していければと思います。これらはご縁がないとできないことなので、そのご縁をQWSが紡いでくれていることはとてもありがたいことだと思っています。
「捨てない名刺」で新しい出会い方を世の中にデザインする
プロジェクト名:
Prairie Card(プレーリーカード)
片山大地さん、坂木茜音さん
Prairie Card(プレーリーカード)はスマートフォンをかざすだけで情報交換ができるデジタル名刺「Prairie Card」の製造・販売、ウェブアプリケーションの開発に取り組んでいます。時間も紙も無駄にしない名刺で、新たな出会い方を世の中にデザインします。
QWSでの出会いが、思考のリミッターを外してくれた
NTTデータ賞と発表されたとき、嬉しいと同時に、最優秀賞ではなかったという悔しさも感じていたのでまさか最優秀賞とのW受賞とは思わず、二人で驚きました。まだローンチ前のサービスなので、今回のQWSステージに期待していたのは、Prairie Cardの存在を多くの人に知ってもらうことでした。
この2カ月間は企業の方々と活用方法についてディスカッションしたり、Prairie Card初のイベントを開催したりと、さまざまな活動をQWSで行ってきました。渋谷スクランブルスクエア株式会社をはじめ、実際に企業にも導入いただきました。また他のプロジェクトの方がPrairie Cardに興味を持ってくれて、僕らが知らないところで紹介してくれている、なんてこともありました。QWSの魅力はやっぱり多様性。会員の属性が固定化されていないからこそ、常に新しい考えに触れられるし、刺激をもらえます。中には自分たちの思考のリミットを外してくれるような考えもありました。そういった率直な意見をリアルに聞けて、それをFABルームですぐに制作し、かたちにできたことが、サービスの改善に繋がったと感じています。
メンバーそれぞれ本業がある中で進めていて、まだまだプロジェクトとしても道半ば。次の3カ月はローンチを控えていますが、妥協せず取り組んでいきたいです。
「QWSステージ#12」
キーノートと17プロジェクトのピッチ映像はこちら
「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を募集しています
2022年11月から活動を開始したQWSチャレンジ第13期のメンバーは、年齢も領域も様々。新しい仲間、新しい自分、新しい世界。どんな出会いが待っているのでしょう。それぞれのプロジェクトの問いは、どのように磨かれ、放たれていくのでしょうか。次回のQWSステージ#13は、2023年1月末に行われます。QWSから生まれる「可能性の種」をお楽しみに。
現在、QWSチャレンジ第14期を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
QWSステージ#12登壇プロジェクト一覧
1. NATIVE TEA ラボ|日本茶で日本の多様性につなげることができるのか?
2. ALLHOME|社会的養護の子どもたちの可能性は、そこで、はたらく人の幸せを通じて広げることができるのか?
3. PocketTips|好きな服を好きなだけポケットに詰め込んで宇宙旅行にいくには?
4. 音声入力でデータ化|IT化、DX化が小売業で進展しない隠れた課題は、何か?
5. Prairie Card|あなただけの「捨てない名刺」は 人々の出会いの体験をどのように変えることができるだろうか?
6. AR伝言板|ARのメッセージを街に置くことで生まれる、新しいコミュニケーションの形とは?
7. salii|21世紀の若者は1本のスプーンで食へのワクワクを取り戻せるのか?
8. Art=∞|Artが生み出す「未知の価値」とは?
9. neco-note|猫の推し活サービスで、保護猫団体の”自続可能性”を高められるか?
10. SCUAD|世界各地の“proud story”をバーチャルファッションとして表現するとなにが生まれるのか?
11. Creators’ Hub|クリエイターのチカラで、世の中にまだない社会的価値を生みだせるか?
12. ラブホテルイノベーション|なぜ、”おすすめデートスポット10選”にラブホテルは載っていないのか?
13. LEUK|それぞれ母語によって教育格差が生まれない社会を実現するためには?
14. 清走中|ゴミ拾いを21世紀の遊びにするには?
15. バディトレーラー|生活導線に必ず組み込める運動を開発すれば、ほとんどの健康問題は解決するのではないか?
16. TEALS|子どもの可能性を引き出す教育とは?
17. 桜月夜|光のオブジェをとおして、世界中の人たちに生きるパワーと心開きたくなる時間を届けるには?