3ヵ月間、問いと向き合い続けてきたプロジェクトメンバーたちの晴れ舞台、QWSステージ。今回はQWSステージ#07の様子と、SHIBUYA QWS Innovation協議会(以下「SQI協議会」)の継続支援が決定した5チームのQWSで見つけた価値や、次のQWSステージへ向けた意気込みをお届けします。
テキスト=秋山和哉・佐藤琴音・守屋あゆ佳 写真=黒田拓海
QWSステージとは、3ヵ月に一度、SHIBUYA QWSに集うプロジェクトメンバーがそれぞれの活動の中で見つけた「可能性の種」を放つ場です。QWSステージ当日はQWS内に舞台が設営され、発表するプロジェクトは、3分間で各々の活動成果についてピッチを行います。
先日、7月29日に開催されたQWSステージ#07では12プロジェクトが登壇し、各々の成果を発表しました。全12プロジェクトのなかから、「謎解きロゲイニング」「Sustainable Game」「渋谷肥料」「Quisine」「SHIBUYAサーキュラー広告プロジェクト」の5チームが、SQI協議会の審議によって、QWSでの活動期間の延長の支援を受けることが決定いたしました。
キーノートトーク
QWSステージでは毎回各分野の第一線で活躍する方をゲストを招き、話を伺う「キーノートトーク」を実施しています。今回のゲストは、慶應義塾大学 環境情報学部 学部長/教授でありアーティストの脇田玲さん。「見ることと解くこと」というテーマでお話いただきました。
「問いを解く」とは何か
「“問いを解く”と言うと、つい1個の答えを出すことを想像してしまいます。例えば、紙と鉛筆で数式を解いて答えることを“アナリティカル(解析的)な解法”と言います。一方で、次の瞬間はこうなっていますと連続的にコンピューターで計算をし続けるニューメリカル(数値的)な解法があります。我々は今、数値的に解く時代に生きているって事をぜひ考えていただきたいです。」
作ることで自分なりの見方が開拓される
「私が作ったソフトウェアがあって、時間を何年もかけて流体の振る舞いをモデリングして、そこからシミュレーションして導き出された数値に色や形を与えました。それをずーっと見ていると、“こういうところから渦ができるんだな”とか、“こういう時は乱流になるんだな”というような知識や経験が自分の中に蓄積されていきました。」
「知識や経験を獲得した状態で物事を見ると、それを引き起こしている物理現象であったり、さらにその裏にあるメカニズムであったりが見えてきます。つまり私たちは作ることを通して自分なりの見方を開拓し何かを“見る”ことができると思います。その開拓したユニークな見方のことを“ビジョン”って言うんじゃないでしょうか。」
「皆さんもそれぞれの創作行為があってその中で“見る”ということを深めていくと思うんです。そのユニークな見方とはビジョンとは一体どんなものでしょう?数値的に何年も何十年も向き合い続けることだけではないと思いますが、解くってことに関してもいくつもバリエーションがあって解析的に解く以外の方法もあるんじゃないかということを意識してみてください。」
継続支援プロジェクト 代表者インタビュー
みんなの期待を胸に挑む
謎解きロゲイニング 齊藤弘起さん
『謎解きロゲイニング』(以下、謎ロゲ)は地方のまちを舞台にしたリアルRPGです。謎ロゲの企画・開催を重ねて、地方問題を解決する地方創生モデルの作成に挑戦し、地域の魅力を再発見するきっかけをつくります。
地域の魅力を楽しく、美味しく伝える
QWSステージ#04のキーノートトークをされていた石川善樹さんの「他人の問いは解けるけど、自分の問いは解けないから解かない」という言葉を参考に、QWSステージの発表に挑みました。今回の発表は謎ロゲに関わる多くの人たちの想いを詰めこみました。継続採択をされたとき、その想いが伝わったことをとても嬉しく思いました。
謎ロゲは、現地の人たちと協力して作っています。そのため、現地の人たちとの関係作りも「丁寧にゆっくりと」を心がけています。開催場所は、お声がけいただいた地域で開催することが多く、最近は様々な地域から謎ロゲが求められています。ゲーム全体が「謎ロゲだからこそできること」を重視して、利き酒や人探しなど細部まで面白さを追求しています。
謎ロゲがより面白くなるようにこれからもアップデートを重ねていきます。そして、いずれ毎日どこかで開催されるようにしたいと思っています。将来的な目標としては、僕が高校を卒業する来年3月までには年商1億円の事業にしたいです。楽しみながら、真剣にこれからも活動を続けていきます!
次の世代に残せるものを「共創」を通じて生み出したい
Sustainable Game 山口由人さん
Sustainable Gameは「愛を持って社会に突っ込め」を理念に掲げ、「誰1人取りこぼさないゲーム(社会)モデル」の実現を目指すプロジェクトです。企業と中高生の相互の状況を深く理解し「次世代と大人」という二項対立のない共創環境をオンライン上に構築するプラットフォームを実装します。
包括的で、倫理的な意思決定ができる社会を目指して
活動規模を拡大すべく、前日まであちこちの学校へ飛び回っていた中で迎えた今回のQWSステージ。2回目ということもあり、これまでSustainable Gameとして活動してきた成果を伝えることができました。
3カ月間で注力した試みの一つが「SPINZ」。Z世代の「ソーシャルグッドアクションリーダー」とタレントが共に4つのテーマに関する課題解決を行なっていく中で生まれる葛藤や成長を描いたリアリティ番組です。映像制作に関わる中で達成感を覚えたと同時に、大人と若者が手を取り合って進めていくことの難しさも実感。放送開始後は「自分たちの取り組みは大衆にウケるのか?」といった不安も芽生えました。そんな中、QWSのプログラムの一つであるスクランブルミーティングで社会起業家、オープンイノベーションを専門とするメンターから僕たちの取り組みについて、「価値にならないと言われることもあるが、ゆっくりと育ってきている分野。焦らずに進めていこう。」と声をかけてもらったことはすごく心強かったです。
愛だけでビジネスは成り立たないと言われているけど、愛だけで成り立つものがあってもいいんじゃないか。僕はそう思います。今後は「Flare」という企業と中高生の共創環境のプラットフォーム構築に向けた活動を本格化させる予定です。立場や世代の枠組みを超えた共創で、より包括的で、倫理的な意思決定ができる社会と人づくりをしていきます。
悩みながら、こだわりながら。循環の輪を描き続ける
渋谷肥料 坪沼敬広さん 清水虹希さん
渋谷肥料は、渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトするプロジェクトです。渋谷から出た生ごみを肥料・堆肥に変えて、栽培キット・スイーツ・コスメの開発と販売を進めています。
新たな出会いが、自分たちの存在意義を問い直す
清水:今回のQWSステージまでの3カ月間は、QWS CROSSTAGEやQWSの連携パートナーでもあるK,D,C,,,でのスイーツ店舗の出店、同じくQWSで活動するプロジェクトや会員との栽培コミュニティの実証実験など、QWSから生まれた出会いを通じて「自分たちに何が求められているのか」を見つめ直すことができた時間でした。
坪沼:有難いことに様々なメディアにも取り上げていただき、現在、企業や自治体、教育や農業関連のコラボレーションが進んでいます。私たちにとって循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現は、誰かから与えられたお題ではなく、実現したい未来のあり方。だからこそ、サーキュラーな社会が当たり前になったときに「渋谷肥料がどんな存在でありたいか?」ということを強く意識しています。もうすぐ、渋谷の生ごみからできた肥料を使ったサツマイモの収穫時期。これまでのサーキュラースイーツの開発や販売の経験を活かしていきたいです。
生活者が本当に求めているものを悩みながらも突き詰め、こだわりのあるものを生み出し続けることが何より大切と思っています。プロジェクトの可能性を信じ、挑み続けるメンバーの熱意とプライドを感じられるときほど、リーダーとして嬉しい瞬間はありません。これからもメンバーと共に、渋谷肥料ならではの循環の輪を渋谷から日本、そして世界に向けて描き続けます。
食のスタイルを見直して、豊かな生き方を選択する
Quisine Mayuさん
Quisineは食と気候変動の関係を広く伝えながら環境負荷の低い食材を開発・提案し、低炭素な食の選択が当たり前にある社会の実現を目指します。
食と社会の繋がりを問う
近年、世界的に問題となっている気候変動。諸外国に比べた際に日本での問題の認知、取り組みの少なさを課題に思った私たちは、生活に一番身近な「食」から取り組める気候変動対策について、ウェブメディアで発信しています。
QWSの良いところは、同じ場に様々なバックグラウンドを持つ人々が集まって人と人が繋がったり、偶発的な議論が起こったりする環境に日常的に身を置けるところです。例えば、Z世代の食の選択におけるインサイトについて、QWSに参加されている企業さんを通して詳しく話を聞くことができました。QWSの場を通して、プロジェクトの課題に別の視座からアドバイスをもらえるので日々企画をブラッシュアップすることに役立っています。
今後は、より多くの人にQuisineの活動を知ってもらい様々な領域の方たちとのコラボレーションをしていきたいと思っています。特に注力したいと思っているのが、メタンの排出を減らした環境負荷の低い「サステナブルビーフ」の実現です。少し先の話かもしれませんが、協力してくださるパートナーと一緒に、まだ日本には存在しない、地球にやさしい牛肉を皆様にお届けすることにチャレンジしていきます。
食は、誰でも身近で楽しめるトピック。良いことをしなければいけない、という意識で気候変動の課題と向き合うのではなく、おいしく楽しく考えるきっかけづくりをしていきたいと考えています。
既存のルールを解きほぐし、広告の未来を問う
SHIBUYAサーキュラー広告プロジェクト
守田篤史さん 和田由里子さん
SHIBUYAサーキュラー広告プロジェクトは、渋谷の街の風景でもある、屋外広告を再生利用可能な素材で製作、掲出後はプロダクトに再加工して、渋谷で販売。大量消費を促す広告がサスティナブルであるためのエコシステムの創造に取り組んでいます。
かっこいいものには、かっこいい終わり方を
和田:素材の寿命に対する役割の寿命、わたしたちはこれを「素材寿命ギャップ」と呼んでいます。SHIBUYAサーキュラー広告プロジェクトはこれまでの製作活動を経て、約一年前に構想し始めたプロジェクト。なんとなく予想はついていましたが、実際に広告を回収する!といっても、そう簡単にはいかず…。デザイナーや関係会社へ知財に関する問題をクリアすることが一番大変でした。
守田:QWSチャレンジでの3カ月間は基本的に毎日QWSに来るようにしていました。QWSのような偶発的な出会いが起こる場所は、自分たちがいないことには始まらない。日常的にコミュニケーターが会員を繋げてくれたり、気遣ってくれたりするのがとにかく嬉しかったですね。また、すぐにプロトタイピングができるFABルームもよく使わせてもらいました。
広告に携わっている人はみな、掲出期間が短いことをわかっているから、再生利用するために回収することを絶対にダメとは言わない。だけど、ハードルが高いからやらない。だからこそ、僕たちが今のルールを解きほぐし、社会的人工素材(※1)を駆使しながら、サスティナブルな広告をつくることを目指しています。今後も掲出された広告を回収するというスタンダードをつくり、可能性を示していきます。
※1 経済活動の中で生産され一度、社会を経由した素材
『QWSステージ#07』
12プロジェクト、それぞれのピッチ映像はこちらから
「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を募集しています
8月から活動を開始したQWSチャレンジ第8期のメンバーは、年齢も領域も様々。新しい仲間、新しい自分、新しい世界。どんな出会いが待っているのでしょう。それぞれのプロジェクトの問いは、どのように磨かれ、放たれていくのでしょう。
次回のQWSステージ#08は、2021年10月末に行われます。QWSから生まれる「可能性の種」をお楽しみに。
現在、QWSチャレンジ第9期を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
https://awrd.com/award/qws09
QWSステージ#07登壇プロジェクト一覧
1. 老人と孫|日本の文化の継承形態「老人と孫」と地方を繋ぐことで、Z世代に文化を継承できるか?
2. MEJIRISHI|顔を通したコミュニケーションの可能性を広げられるか?
3. Intent|令和における音楽一曲の価値とは?
4. chokei design|音環境デザインとは?
5. stich_|一枚の服に愛着を持つには?
6. inochi kanto|若者から定義する高齢社会の新しい医療のあり方とは?
7. SHIBUYA valley|渋谷のひみつ基地で、何して遊ぶ?
8. 謎解きロゲイニング|謎解き×街歩きのエンターテインメントが地域に与える影響とは?
9. Sustainable Game|中高生と企業の共創は社会の二項対立をなくすイノベーションを起こせるのか?
10. 渋谷肥料|渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトできないか?
11. Quisine|牛も人も安心してげっぷできる世界をつくるには?
12. SHIBUYA サーキュラー広告プロジェクト|屋外広告を循環するには?