3カ月間、問いと向き合い続けてきたプロジェクトメンバーたちの晴れ舞台、QWSステージ。今回はQWSステージ#14の様子と、SHIBUYA QWS Innovation協議会(以下「SQI協議会」)による厳正な審査の結果、見事優秀賞・最優秀賞を受賞した5プロジェクトのSHIBUYA QWS(以下QWS)で見つけた価値や、次のQWSステージへ向けた意気込みをお届けします。
テキスト=小林諭佳・髙木香純・根岸薫海・佐藤琴音 編集=小山田佳代 写真=土谷美咲
QWSステージとは、3カ月に一度、QWSに集うプロジェクトメンバーがそれぞれの活動の中で見つけた「可能性の種」を放つ場です。QWSステージ当日はQWS内に舞台が設営され、発表するプロジェクトは、3分間で各々の活動成果についてピッチを行います。
4月27日に開催されたQWSステージ#14では13プロジェクトが登壇し、各々の成果を発表しました。SQI協議会の審議のもと、全13プロジェクトの中から「sake3」がSQI協議会最優秀賞(企業賞である味の素賞とのダブル受賞)に選ばれました。また、SQI協議会優秀賞として「mairu」(企業賞であるNTTデータ賞とのダブル受賞)、「Play Shibuya」、「ゲストハウス向けapp開発」、「ALLHOME」の4プロジェクトがそれぞれ受賞し、計5チームがQWSでの活動期間の延長の支援を受けることが決定いたしました。
キーノートトーク
QWSステージでは、各分野の第一線で活躍している方をゲストにお招きし、講演していただく「キーノートトーク」を実施しています。第14回のゲストは株式会社マクアケ共同創業者 / 取締役の坊垣佳奈さん。
Makuake(マクアケ)では創業以来、作り手や担い手の想いやこだわりに共感し、応援の気持ちを込めて購入する体験「応援購入」という仕組みを通じて、世の中に新たな価値を提供しています。今回は坊垣さんに「問いとの向き合い方」というテーマでお話いただきました。
――坊垣佳奈さんのキーノートトーク
「社会価値」は個人に問われている時代
私たちが展開する「Makuake(マクアケ)」というサービスは、クラウドファンディングの仕組みを活用していますが、もっと包括的な事業を目指してビジョンを掲げています。私たちのビジョンは「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」。だから「アタラシイものや体験の応援購入サービス」を意味する「応援購入」という言葉を使っています。
新しいものやサービスが生まれやすく、広がりやすくなる。それとともに技術や職人、思いを込めてものづくりをしている人や企業が存続していられる社会を目指しているんです。
ビジネスでは事業を続けること、利益をうむことも重要です。一方で、企業活動を通して世の中に何を提供できているのか、どんなポジティブな変革をもたらせているのか、そう言ったところを問われている時代だと思うし、それは企業だけでなく、そこに属している個人にも問われていることだと思います。
「自己」と向き合うことで生まれるオリジナリティ
イノベーションを起こす「問い」の原点は、「自己との向き合い」ではないでしょうか。
世の中に溢れている「誰か(他人)」の見方・見解ばかりを頼りにしていると、おそらく「すでに世に出ている視点」しか生まれてきません。
情報が溢れる中でもしっかり自分で考える。自分は何がやりたいのか、自分は何を大切にしているのか、自分の価値観はどこにあるのか。その思考の積み重ねが、実は一番のオリジナリティに繋がるものだと思います。
個人から湧き上がる内発的なものに、誰かと全く一緒ということはないはずです。オリジナリティをうむチャンスはそれぞれ皆さんが持っているので、ぜひ、じっくり自分の気持ちと向き合ってみてください。
登壇者略歴(坊垣佳奈 氏)
株式会社マクアケ 共同創業者 / 取締役。同志社大学卒業後、2006年に株式会社サイバーエージェントに入社。株式会社サイバー・バズの他ゲーム子会社2社を経て、2013年株式会社マクアケの立ち上げに共同創業者・取締役として参画。
主にキュレーター部門、広報、流通販路連携関連の責任者として、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」の事業拡大に従事しながらも、 全国各地での講演や金融機関・自治体との連携などを通した地方創生にも尽力。女性社員が多いマクアケでは、多様なライフスタイルを望む若い世代の活躍推進を意識した組織運営を推進。
また、ENECHANGE株式会社の社外取締役、XTalent株式会社の外部アドバイザーにも就任しているほか、教育分野ではiU(情報経営イノベーション専門職大学)の客員教授なども歴任しており、ACCやTBDAなどのクリエイティブ・デザイン関連賞の審査員なども務めている。2021年4月、著書『Makuake式「売れる」の新法則』を出版。
受賞者インタビュー
誇るべき日本の酒蔵を、世界に開く
プロジェクト名:
sake3 須田隆太朗さん
世界中で愛されている日本伝統産業の日本酒。一方で原料の買い付けから商品の販売までの期間が長く、商品開発の資金的リスクが大きい構造上の課題があります。そこで、sake3は新しい日本酒造りプラットフォームの実現可能性を検証し、日本酒産業が抱える課題をweb3技術を用いて解決します。
新しい挑戦を応援したい、造り手と飲み手の架け橋に
日頃から、メンバーとは日本酒のトレンドについて話したり、それぞれが飲んだ日本酒に関する情報交換をしています。みんな、日本酒が好きなんです。私の場合は、酒蔵の経営者や杜氏がどんなことを考えながら味を作っているのか、知れば知るほど日本酒の面白さに気付かされます。酒蔵ごとに個性があるので、日本酒を飲むときも、蔵人やその地域に目を向けることを大切にしています。
QWSで良かった点は、幅広い年齢層の方にヒアリングできたこと。私たちが予想していた仮説を実際に検証できる場(QWS CROSSTAGE)があったり、雑談を通して新しい考えに触れたりすることができました。
また、QWS CROSSTAGEに出展した際には、福井県に蔵を構える酒蔵の方と出会うことができ、実際にサービスづくりに協力していただくことになりました。
次の3カ月では、実際に各地の酒蔵を巡り、経営者の方やお酒を造っている方から、どんなことに挑戦をしたいのかヒアリングする予定です。酒蔵に関わる人と密に話をすることで、酒蔵が抱える課題を知ることができたり、日本酒造りの新たな可能性を見つけることができる気がしています。また、6月にはコペンハーゲンやロンドンを訪れ、sake3の取り組みをプレゼンテーションすると同時に、西洋における日本酒の受容の実態を体験していきます。そして、世界中の人と話す中で、世界に日本酒の魅力が伝わるサービスを展開していきます。
望む場所に誰もがたどり着ける社会に
プロジェクト名:
mairu -福祉タクシーと利用者のマッチングシステム- 大村慧さん、柴田紗季さん、田上愛さん
世の中には身体的ハンディキャップを抱え、自力での移動が難しい方が数多くいます。彼らの移動を支えているサービスは「福祉タクシー」や「民間救急」と呼ばれていますが、検索と予約の手間が利用者にとって大きな負担になっているのが実情です。mairuは、この課題にマッチングという観点から取り組むことで、福祉タクシーを起点として移動を全ての人にとって開かれたものに変え、「望む場所に誰もがたどり着ける社会」の実現を目指します。
チームの力で望む未来にたどり着く
私たちは約1年前からmairuとしてプロジェクトを発足し、QWSチャレンジに採択されたことを機に、活動を本格化させてきました。メンバーは高校や大学の同級生で構成されています。QWSはそれぞれの大学から集まりやすい場所にあり、この3カ月はQWSにいることがルーティーンでした。バックグラウンドの異なるさまざまなメンバーが自由に活動していて、のびのびとできるのがQWSの好きなところ。QWSを通じて、繋がりも急速に広がったと感じています。
この3カ月では、福祉タクシーの実態をヒアリングするため、日本各地の自治体に連絡をとりました。その中でご縁のあったある自治体と、2023年9月・10月に実証実験を行うことが決まりました。次の3カ月は、その実証実験に向けた準備を行いつつ、プロトタイプの精度を高め、次のタネを蒔いていきたいと思っています。
ゆくゆくは事業を通じて、社会に良いインパクトを与えたいです。目指すのは「望む場所に誰もがたどり着ける社会」の実現。華やかな面だけではなく、泥臭いことがあることも知っていて、一緒に活動していて楽しいチームだからこそできると信じています。次回のQWSステージはその試金石として、目標としている最優秀賞を受賞したいです。
現役JKが挑む、誰もがファッション・メイクを学べる環境づくり
プロジェクト名:
Play Shibuya 日暮香怜さん、藤森柚葉さん、木村利優さん、森優美さん
社会に出ると当たり前に求められるメイクやファッション。しかし学校の校則は厳しく、学ぶ機会も決して多くはありません。Play Shibuyaは、メイクやファッションの知識がないまま社会に出ることで生じる環境ギャップの悩みを解決します。
学校を飛び出してQWSへ。視点が広がった3カ月間
QWSで過ごした3カ月間では、プロジェクトの軸が二つ明確になりました。
一つ目は、ファッションは自分らしさを見つけることができるということ。QWSコモンズの方とメンタリングセッションができる「スクランブルミーティング」がきっかけで気づくことができたんです。メンターとして参加されていた、ファッション業界の第一線で活躍されているコモンズの方が、何度も「自分らしさを取り入れること」の大切さを話されていて、「自分らしさ」は私たちのプロジェクトにとって大切なキーワードになりました。二つ目は、ファッションを学ぶ環境を求めているのは高校生だけじゃないということ。私たちは3カ月間で約30社以上の企業の方にインタビューをしてきました。普段、女子校に通う私たちにとってメイクやファッションについて男性からも意見を聞くことは新鮮で、性別問わず、誰もがファッションを学ぶ機会を必要としていることがわかりました。
また、4月にはずっと目標にしていた模擬授業をQWSで開催。「インタラクティブな授業をしたい」という私たちの譲れない思いを伝えながら、企業の方と準備を進めてきました。当日は参加者全員に楽しんでもらえたと感じています。
今回、QWSステージで優秀賞を受賞したことで、プロジェクトに共感してくださる先生方がいることもわかりました。今後はプロジェクトを下の世代へと繋いでいき、いずれは学校で授業をやるという目標を達成したいです。
”出会い”と”繋がり”を後押しするサービスを目指して
プロジェクト名:ゲストハウス向けapp開発 姜利英さん
ゲストハウスは人と人とが出会う場所。しかし実際にゲストハウスに滞在してみると、利用者同士が繋がる機会は少なく、難しさすら感じてしまうことも。そこで、ゲストハウス向けapp開発ではゲストハウス向けのアプリ開発を通じて、ゲストハウスのホスト・利用者や利用者同士の交流が生まれるきっかけをつくり、より良い出会いを設計する取り組みに挑戦しています。
QWSは僕たちにとって「窓」のような存在
僕たちのプロジェクトは学生団体やサークルに近いため、内輪に閉じたものになってしまうことが多かったんです。そんなとき、QWSチャレンジに採択していただき、QWSステージのような大きな舞台で発信することで、多くの人にこのプロジェクトを知ってもらう機会ができました。そうやって出会いや繋がりが連鎖し、新たな景色が見えるQWSは僕たちにとって、まるで「窓」のようで、とても魅力的な場所でした。
QWSに入ってからの3カ月で印象に残っているのは、QWSで開催されていたイベントを機に繋がった長崎県雲仙市の方との出会いです。その方とは「地域」に対する考え方が近かったこともあり、意気投合。その後、長崎県を訪れ、雲仙市内を案内してもらいました。実際にゲストハウスを始めようとしている方を紹介していただいたり、市内のゲストハウスに宿泊してみたりと、QWSでの繋がりから、雲仙市内で活動している人たちとの出会いに繋がりが広がっていきました。
実は僕たちは現在、福島県葛尾村と東京の2拠点で活動しています。今年の夏頃には、葛尾村でハッカソンの開催や展示イベントも予定しています。今後もどんな形であれ、地域とその地域に関わりたい人を繋ぐ取り組みを続けていきたいと思っています。
みんなで子どもを育てる仕組みをデザインする
プロジェクト名:ALLHOME 吉住海斗さん
すべての子どもにやさしいホームを実現するため、社会で子どもを育てる仕組みをデザインするALLHOME。社会的養護に関わったことのない人ももっと自由に、心地のいい距離感・やり方で、子どもたちと関わることができるよう、多様な形で社会的養護と社会をつなぐ仕組みを作っています。
共感で終わらせない。行動につなげるために必要なこと
児童養護施設で育った僕もこの春、無事に大学を卒業し、新社会人になることができました。社会人になったことで、取り巻く環境は大きく変わりました。
この3カ月間はALLHOMEが活動する意味をあらためて考え、言語化することに注力してきました。ALLHOMEの掲げるビジョン・因果関係・手段・意味など、複雑に絡まっている要素をわかりやすいイラストで、一つの図に表現したんです。その結果、どんな仕事をやるとしても「すべての子どもにやさしいホームを」というビジョンに紐づいているかを見失わずに、活動することができるようになりました。
今回は僕たちALLHOMEにとって3回目のQWSステージ。ピッチではみんなで子どもを育てるために何をしていくのかを具体的に噛み砕いて伝えることで、単に共感してもらうだけではなく、ALLHOMEについて理解してもらうことをゴールにしていました。その結果、また優秀賞をいただくことができて、とても嬉しく思います。
QWSでやりたいことは、まだまだたくさんあります。例えば、社会的養護で育った人たちのライフストーリーをまとめたレポートを作ること。これは7月にリリース予定です。また児童養護施設の求人口コミサイトを作るために、1年以上前から専門スキルのある人との出会いを求めて、ずっと試行錯誤を続けているので、今度こそは実現させたいです。
「QWSステージ#14」
キーノートと13プロジェクトのピッチ映像はこちら
「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を募集しています
2023年5月から活動を開始したQWSチャレンジ第15期のメンバーは、年齢も領域も様々。新しい仲間、新しい自分、新しい世界。どんな出会いが待っているのでしょう。それぞれのプロジェクトの問いは、どのように磨かれ、放たれていくのでしょうか。次回のQWSステージ#15は、2023年7月末に行われます。QWSから生まれる「可能性の種」をお楽しみに。
現在、QWSチャレンジ第16期を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
QWSステージ#14登壇プロジェクト一覧
1. mairu|「Webサービス」はどこまで人の「移動」を解き放てるか?
2.OPEN AGENCY|広告市場における”オープン化”の仕組みと可能性 多様化された人材とスキルで広告市場をより知的創造産業として加速させることはできないか?
3. ALLHOME|社会的養護の子どもたちの可能性は、そこで、はたらく人の幸せを通じて広げることができるのか?
4. 第3のふるさと構想プロジェクト|定年退職後の生活を彩りあるものにするには?
5. Werp|ITをフル活用できる社会を作るには?
6. Play Shibuya|JKが『ファッション』を学んだら社会はどう変わるのか?
7.Flower Light Movement -桜月夜&hana-|花の力を通じて、人の心とつながりをエンパワーするには?
8. ゲストハウス向けapp開発|情報技術はゲストハウスを中心とした関わりをどのように変えられるか?
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