2019年11月にオープンを果たしたSHIBUYA QWS。
開業前から場所を変えて開催されていた『クエスチョンカンファレンス』がついに、SHIBUYA QWSで開催されました。
本記事では、「未知の問いに出会う」ことを目的とした『クエスチョンカンファレンス|何を問い、どう学ぶ?』の様子をご紹介します。
テキスト=髙木香純 写真=コムラマイ 編集=矢代真也
クエスチョンカンファレンスとは?
多様なバックグラウンドの登壇者が集い、多様な問いを混ぜ合わせながら未来の可能性を探るトークカンファレンス。素朴な疑問から哲学的な考察まで、まだ答えにならない視点や意識が交差することで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。新しい問いが立ち上がる瞬間をお届けします。
スピーカー
野城 智也
野城 智也
藤井 晴行
藤井 晴行
田辺 新一
田辺 新一
三木 則尚
三木 則尚
宇都 正哲
宇都 正哲
横石 崇
横石 崇
中村 茜
中村 茜
鈴木 奈津美
鈴木 奈津美
五十嵐 美樹
五十嵐 美樹
矢代 真也
矢代 真也
学びを問う
第1回目から食、老後、都市という様々な切り口で“未知の問い”について考えてきた『クエスチョンカンファレンス』。
第4回目となる今回は、QWSプログラム企画に参画する連携5大学とのキックオフイベントとして「あなたと学びのこれから『何を問い、どう学ぶ?』」というテーマで、様々な問いやディスカッションが交わされました。
今、わざわざどこかに足を運んで、何かを「学ぶ」意味とは何か。問いをテーマにした「QWS」という施設でどんな問いと出会い、どう生かしていくのか。
始動したばかりのQWSの価値を探るべく、イントロダクションでは登壇された大学の先生方が、どのようにしてQWSと出会い、なぜ大学を出てこの場に集まろうと思ったのかを伺っていきます。
早稲田大学 教授の田辺新一さんは、大学から出る理由を「きっかけに出会うため」だと話します。
「人間の能力はダラダラとは伸びない。何か思わぬ人に出会うことで、新しいことに気付いたり、知らなかった世界に足を踏み入れるきっかけになる。同族ではない人に出会うからこそ発見が多くある」
興味のある分野にたくさんの時間を費やす大学という環境では、深い学びに出会えそうですが、登壇した先生方は皆、自分の領域外の人と関わることも重要だという意見に賛同しているようでした。
『QWSチャレンジ』で採択されたプロジェクトチーム「母親アップデートコミュニティ」代表の鈴木奈津美さんは、ご自身の活動内容と絡めてQWSに期待することをこのように伝えてくれます。
「私は今まで自分の学生時代について考えることは特になかったんです。でも子育てをするようになって、今のプロジェクトのようなコミュニティができて初めて『これからの学びの場』に興味を持つようになりました。自分の子ども達がどんな場で、どんなことを学ぶのか。大人になった私たちだからこそ考えられるリアルな意見もあると思うから、いろんな人の思いが詰まった“理想の学びの場”っていうのを、これから大学の先生方や学生さん達と考えていけたら嬉しいです」
遊びから学ぶ可能性
イントロダクションの後は、QWSと関わりのある様々なプレーヤーをお迎えして、ディスカッションが繰り広げられていきます。
QWSプログラムパートナーであるDRIFTERS INTERNATIONALの中村 茜さんは、ご自身の取り組みの発端となる「RE/CREATION」という言葉の持つ意味と、QWSの可能性について以下のように紐解いていきました。
「便利なものが増えてきている今、自分の感性で何かを考えたり作り出していく『余白』が奪われてきているように感じます。何か新しいイノベーションやクリエイティブを生み出していくには、頭の中になんでも自由に描いていいキャンバス、余白がもっと必要だと思うんです」
「“RE/CREATION(リ クリエーション)”という言葉は『レジャー、余暇』なんて意味で使われていますが、もともとこの言葉が日本に伝わった明治期には『復造力』という訳が与えられていました。QWSは毎日の学校や仕事とは別に、ここに来たら“何か違うマインドになれる”ような場所になるといいと思っています」
これに対して田辺さんは、「どんなに便利な時代になっても外注できない3つ、『学ぶ、遊ぶ、寝る』ってありますよね。これらは自分でやらないと、いろんなことがうまくいかなくなる」と、学びや遊びの大切さを付け加えてくれました。
寄り道の美学
QWSでは、メンバー同士が自分の持つ「問い」を共有・交差させることで、問いが深まったり、時には一度壊されて新たに再構築されるような「問いのスクランブル」に注目しています。
QWSチャレンジで採択されたプロジェクトチーム、「STEMee」の代表 五十嵐美樹さんは「コミュニティーで生まれる問いを生かすには?」というトークテーマについて、実体験から感じていることをこう語ります。
「こういう活動をしていると、取り組みについて様々な意見が得られます。『それは目的ありきだから探求ではないのでは?』と言われたり、『学術とかもう置いといて、流行るものを作りなよ』と言われたり。学術と実装の両立はとても難しく感じて、すごく悩むんです。でも、自分たちだけで問いを見直し続けることはもっと難しいから、迷いは増えるけど、積極的に周りの人に話を聞いてもらって、問いを研ぎ澄ませていくことが大切だとも感じています」
東京大学 教授の野城智也さんは「大きな企業でトライ&エラーって難しいですよね、失敗できないから。こういう場所で小さく始めて何度も失敗して、そこで初めて学ぶ。やり直すことができる。そうやって学びを進化させて行くことも大事ですよね」とQWSだからこそできる活動の魅力を加えてくれました。
慶應義塾大学 教授の三木則尚さんも「自分は普段から道に迷うことが好きなんです。迷子になってこそ出会える新しいお店とかってあるじゃないですか。QWSはたくさんの人と話し合って、たくさん迷子になれる環境だと思います」
「それにいろんな人がいる環境だから、そこにいるだけで経験値が上がるような場所だとも思うんです。そういう贅沢な環境にいかに身を置けるかが大切だと思っています」と寄り道すること、迷子になることの面白さを話してくれました。
多様性の原点、“違う”は当たり前?
近年、社会では「多様性」という言葉が重要視されるようになってきました。ですが私たちはそもそも、どうしてこの言葉に縛られているのでしょうか。十人十色という言葉があるように、100人いれば100通りの性格や考え方があるはず。多様ってもしかして当たり前のことなのでは…?
そんな問いに対して、東京工業大学 教授の藤井晴行さんは、「多様性って、様々な見方があるということだと思います。“違う”っていうのは当たり前のことで、その違う意見や価値観、別の人が持っている尺度に対していかに感性を研ぎ澄ますことができるかが重要です」と見解を示します。
会場に来ていたアフリカ在住経験があるという女子高校生からは、「日本の学校はみんな同じような制服を着て、きれいに整頓された机でみんな前ならえをしていて。多様性が大切と言っているわりには、多様性を育てない姿勢に疑問を感じています」という、鋭い意見が提示されました。
この意見にパネリストや会場に集まった大人たちは大きく頷き、日本人特有の「“人と同じ”である安心感」を打開するための解決策が探られる場面もありました。
「問う」ことは生きること
東京都市大学 教授の宇都正哲さんは、ビジネスマン時代の経験を振り返り、現代人の問いに対しての姿勢をこう話します。
「昔の技術開発にはある程度の目標が見えていた。その目標に向かっていかに安く、早く、丈夫なものができるか……のような課題解決のステップができていた。けれど、ある程度そのモデルが完成した今、モノやコトをいかに作るかより、『何を』作るかをみんなが考えなきゃいけなくなったんです」
これに対して藤井さんはこう加えます。
「問うことは“生きること”だと感じています。『今日何を食べようか』のレベルでものごとを問う。日本人は解き方ばかりを教わって、問いを立てることを教わってこなかっただけ。問うことが重要だと思われるようになった今が、むしろやっと普通になったと思っていいのでは?」
QWSで過ごしていると「問い」という言葉に難しさを感じる瞬間もありますが、藤井さんのお話は、問うことが私たちの生活にとっていかにニュートラルな行為であるかをとてもわかりやすく示してくれるものでした。
QWSでどう学ぶ?
最後は「どんな問いが、今必要なのか」というテーマで、登壇者も交え会場に集まった人たちで3人1組のチームを作り、問いや感想を共有していきます。ゲスト同士の会話をピックアップしていくと、中国から来た留学生から、とても興味深い話が飛び出します。
「イギリスに留学を考えていたけど、ご飯が美味しくなくて生活ができそうになかった。言語だけではない、いろんなことを学ぼうと思った時に、学ぶ環境がすごく重要だと感じた。自由な発想を得るには快適性が自分には必要だった」
実際に生活の環境を大きく変えている留学生からの意見だからこそ、 とても説得力があり、リスナーだけでなくスタッフ達も“学びや感性を育む環境の重要性”を再認識する瞬間でした。
この記事を書いている私はこれからコミュニケーターとして、QWSに集まるみなさんの活動をサポートするのが役目ですが……。
私自身もたくさんの問いを持って、ここに集まるみなさんと問いを交差させて、学びを深めていきたいと感じます。そしてより良い“場づくり”ができるよう、試行錯誤していきたいと思いました!
みなさんもSHIBUYA QWSで、たくさんの問いをスクランブルさせてみませんか?