【遠山正道】大事なのは、子どもの眼差し。“問い”を起点に事業を創る思考法

NewsPicksタイアップ

  • 野村幸男
  • 佐渡島庸平

成熟期を迎えた、日本社会。明確な課題が世の中からなくなりつつあるいま、求められているのは「答え」ではなく「問い」だ。 そんな「問い」を見つけ出し、アウトプットに繋げられる場が、渋谷スクランブルスクエアの共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ、以下QWS)」。 オープンから1年半が経過し、QWSで生まれた多くの問いが、芽吹きつつある。 今回は、そのプロジェクトの一つである「渋谷肥料」と、QWSコモンズ(注1)としてメンタリングやエンジェル投資を行うスマイルズ代表取締役社長の遠山正道氏の対談を実施。「問いを起点に事業を創る秘訣」を探る。

注1:QWSでプロジェクト活動を行うメンバーを支援する会員

 

執筆=村上佳代 編集=金井明日香 写真=大橋友樹 デザイン=小鈴キリカ

(こちらの記事は2021/3/31に公開された、NewsPicks Brand Design制作記事の転載となります)

 

自分の「欲」を突き詰めよ

渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトするプロジェクト、渋谷肥料の代表。クリエイティブ・デザイン・コンセプトメイキングについての理論と方法論を駆使し、多方面でクライアントの課題解決に携わる。SHIBUYA QWSで立ち上げた渋谷肥料プロジェクトでは全体コンセプトの設計と各プロダクトのディレクションを手がける。2021年に合同会社渋谷肥料を設立。

遠山:渋谷肥料のプロジェクトは、前から気になっていました。以前にQWSのスクランブルミーティング(注2)でお話ししたよね?

坪沼:はい、以前もアドバイスをいただきました。今日は改めて遠山さんに相談できると聞いて、大変楽しみです。

まずは遠山さんがご自身の事業を始めるとき、どのように問いと向き合っているのか、お聞きしてみたいです。

 

注2:プロジェクト活動を行うQWS会員向けのメンタリングプログラム。遠山氏をはじめとした、多様なプロフェッショナルに、プロジェクトの相談ができる。

1962年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、三菱商事株式会社に入社し、建設部や情報産業部門に所属。 97年、日本ケンタッキーフライドチキンに出向。1999年、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」開店。翌年、三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立。ネクタイブランド「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」の企画・運営など。

遠山:「問いはどこにあるんだ?」と、辺りを探し回っている感じではないかも。

むしろ「自分は何に興味があるのか」「何ができるのか」と、自分に向き合い続けることで、問いを見出していると感じます。

私が「Soup Stock Tokyo」を始めたのはもう25年前ですが、きっかけとなったのは身近な問いでした。

当時のファスト・フードは、「スピードが速い分、味もサービスも悪い」というイメージがついていました。その状況に対して「なんでこうなっちゃうの?」と、純粋に疑問を持ったのです。

その固定観念を覆すような、ホッと一息つけるファスト・フード店を作りたいと、「Soup Stock Tokyo」が生まれました。

坪沼:確かに自分の問いを起点にすれば、自分ごとにしやすいですが、独りよがりにならないためには何が大切でしょうか?

遠山:もちろん、「自分起点なら100%上手くいく」というわけではないんだけれど。

それでも自分の「やりたいこと」を粘り強く掘っていくと、それが急に社会性を帯びたり、周りの共感を得られたりするタイミングがあるんだよね。最近私は、それを「社会的私欲」と呼んでいます。

逆に「これが流行っているらしい」とか「こういう問題があるらしい」という他者起点で事業を始めても、自分の中の大義名分が薄っぺらいから、深掘りできない。

だからこそ、まずは自分の心と体に嘘をつかずに向き合ってみる。グローバルとか、イノベーションとか、大きいことは考えなくていいんです。

自分の1/1の人生の中で、身近な問いを探すことから始めるのがいいんじゃないかな。

問いは身の回りにある

遠山:QWSで生まれた渋谷肥料がどういうプロジェクトなのか、改めて教えてもらえますか?

坪沼:渋谷肥料は、「渋谷を『消費の終着点』から『新しい循環の出発点』にシフトできないか?」という問いを掲げるプロジェクトです。

具体的には、渋谷から出た「生ごみ」から、肥料を作っています。その肥料を、家庭や屋上菜園向けの栽培キットに活用したり、都市農園でハーブを育てて雑貨の原料にしたりしています。

さらに現在は、生ごみから作られた肥料でサツマイモを育て、スイーツを作り、渋谷で販売しています。

渋谷肥料の立ち上げ時に描いたプロダクトイメージ図。提供:渋谷肥料

発端は2年前、QWSの開業前にQWSとNewsPicksが共催したアイデアソンに参加したことでした。

「渋谷が抱える課題を解決するアイデア」を考えるのがお題だったのですが、私たちはハロウィンのごみ問題に代表されるような、「消費の終着点」としての渋谷に着目しました。

ごみを捨てて「おしまい」としないためにどうすべきか、アイデアソンを機に考え始めたのです。

遠山:なるほど、「ハロウィンのごみ問題」という身近な問いから始まったんだね。ごみ問題の解決として、あえて肥料にした理由は?

坪沼:確かにイベントなどを通じた啓発はとても大切です。一方で、一時的な盛り上がりで終わってしまうことも多い。

それよりも、手触り感あるプロダクトを作る方が、人々の日常に溶け込めるのではと。

そう考える中で、ごみとして処分されたものが「循環の出発点」になる、渋谷肥料のコンセプトができあがったのです。

渋谷の生ごみを資源として新しい循環を生み出す、渋谷肥料のプロダクト展開。同プロジェクトは昨年10月、東京都のイノベーション・エコシステム形成促進支援事業に採択された。

これから仕事は「プロジェクト化」する

遠山:生ごみから作った肥料で野菜を作り、スイーツに生まれ変わらせるアイデアは面白いよね。渋谷内に新しいバリューチェーンを作ろうとしているんだね。

問いをプロジェクトに発展させていく中で必要なのは、仲間集めだと思うけれど、渋谷肥料のメンバーはどのように集まったんですか?

坪沼:メンバーの一人である清水虹希さんとは、QWSで出会い、プロジェクトに加わってもらうことになりました。

食品ロス問題を探求するプロジェクトメンバー。オーストラリアへの1年間の留学を機に“Social Good”な活動に目覚める。フードバンクでのボランティア活動、学生団体でのオンラインワークショップ運営経験を経て、渋谷肥料プロジェクトに参画。現在はプロダクト開発やイベント運営に従事。持続可能なサーキュラーエコノミービジネスを研究することを目的に慶應義塾大学総合政策学部へ今春から進学。

清水:そうなんです。私は前から、食品ロスの問題に興味があって。

きっかけは、中学生のときにケーキ屋で職場体験をしたこと。「ケーキを毎日食べられるんじゃないかな……?」くらいの軽い気持ちで選んだのですが、そこで毎日大量のケーキが捨てられているのを目の当たりにしました。

ショックを受け、食品ロスの問題を真剣に考え始めたんです。

高校進学後、食品ロスへの取り組みが進んでいるオーストラリアへ、1年間留学しました。実際にフードバンクを訪ねたり、ボランティアをしてみたりと活動したのですが、食品ロスの明確な解決法は見つかりませんでした。

そんな中、帰国後に縁あって訪れたQWSで、坪沼さんに出会いました。私が抱いていた、「どうしたら日常的に食品ロスを意識してもらえるか?」という問いと、渋谷肥料のコンセプトがぴったり合致していて、参加を決めたんです。

遠山:清水さんはいま、高校生なんですよね。年齢や職種に関係なく、同じ問いを持つ人が集まり協力できるのは、QWSならではだよね。

ほかには、どんなメンバーがいるんですか?

坪沼:大手企業やベンチャーで働くメンバーに加えて、農業や食のエキスパート、デザイナーの方々が関わっています。

「まず、やってみよう」というメンバーのマインドを、知見を持つプロフェッショナルな人たちと共に具現化していけるのは、本当に心強い。

考えてみると、出会いの多くはQWSがきっかけでしたね。

渋谷スクランブルスクエアの生ごみを集める仕組み作りはもちろん、スイーツのプロジェクトでも、QWSで生まれた縁が積み重なって、オリジナルメニューの販売まで辿り着くことができました。

遠山:なるほど。いろいろな個人と意見交換できて、個性を持つ仲間を見つけられる場所は、すごく貴重だよね。

いまの時代は、個の存在がどんどん大きくなっている。尖ったスキルを持った個人が、複数のプロジェクトに参加していく、そんな時代がすぐ来ると思います。「フリーランスの商社マン」みたいな人も、出てくるんじゃないかな。

QWSはプロジェクト化時代の、ハブ(中枢)になっていくのではないでしょうか。

悩んだら、原点に立ち返る

坪沼:とはいえ、日常的に肥料を使う人はやはり限られているので、ここから進むべき方向は悩んでいます。

遠山さんは、事業を進めるなかで壁にぶつかったら、どうしているんですか?

遠山:悩んだら、「目線を上げる」ようにしています。

壁にぶつかるときほど小手先の方法に頼ってしまい、本質的な解決に至らないもの。だけどここで大事なのは、一度立ち止まって目線を上げて、「自分は何のためにこれをやっているのか?」と意義に立ち返ること。

たとえば、スマイルズが運営する「PASS THE BATON」。厳選された商品を並べる新しいコンセプトのセレクトリサイクルショップとしてオープンしたのですが、 どうしても「リサイクル品=B級品」という見られ方をしてしまうのが課題で。

そんなときに、「リサイクル品ってむしろ、新品よりもストーリーがあるのが魅力だよね」と、事業を立ち上げたときの思いに立ち返る。

そういった原点に戻って、印刷ミスがあるいわゆる“不良品”のトートバッグに、オリジナルのデザインを施して販売したこともありました。むしろ普通のお店は絶対に作らない、すごいデザインにしちゃおうよ、と。

結果的に希少価値が出て、遠くからわざわざ買いに来てくれる人もいたんです。

※2022年現在は「PASS THE BATON MARKET」を中心に事業を展開。

経営は、子どもの眼差しと大人の都合の掛け合わせ

遠山:渋谷肥料に関しては、「渋谷を循環の出発点にしたい」という原点に立ち返ったときに、肥料だけだとやはり用途やターゲットが狭いよね。

出てくるごみの量と、肥料として使いたい量には、大きなギャップがある。「渋谷」「肥料」に加えて、もう一つの軸を作る手はあるかもしれないよね。

そもそも渋谷肥料は、啓蒙活動にとどまらず、継続的な事業として成り立たせたいんだよね?

坪沼:はい。ですが、問いを起点に事業を創るのは、やはり難しいことだと感じています。

たとえば起業するときって、「うちはほかに負けない技術があるから、それをビジネスにしよう」というケースなどがあると思います。しかし私たちは技術優位がない状態で、問いやビジョンからスタートしています。

遠山さんは、自分の「やりたいこと」を事業にして、きちんと収益を得るため、何を心がけていますか?

遠山:私は、経営は「子どもの眼差し」と「大人の都合」の掛け合わせで、成り立っていると感じています。

子どもの眼差しというのは、「これをやってみたい」とか「なんでこうなんだろう」というピュアな思いや問いのこと。一方で大人の都合とは、「とはいえ、明日の飯を食わなきゃいけないよね」という利益やコストの部分。

結局、子どもの眼差しと大人の都合を行き来することが、大事なんじゃないかと。経営では、そのバランスを常に考えています。

渋谷肥料は、しっかりと子どもの眼差しは持っているよね。一般的にビジネスには、大人の都合が優先されることが多いから、これは大きな強み。

そういう意味で、子どもの眼差しを磨くには、QWSは最適な場所ですよね。自分の奥深くに根ざす問いに真正面から向き合い、仲間を見つけ、自分たちなりの解決策を見つけ出す。

QWSでこのプロセスを経験できるのは、これからの人生の大きな糧になるんじゃないかな。

私は正直、事業創りに失敗という概念はないと思うんです。たとえば10枚の絵を描いて、8枚売れて2枚売れ残ったとする。では、その2枚は失敗作でしょうか?

私は違うと思います。自分がしっかり思いを乗せて10枚絵を描いたら、どれも自分の娘みたいなもの。8人はお嫁に行って、2人はまだありがたいことに家に残ってくれている、みたいな(笑)。

事業も同じで、収益が思うように上がらない事業に対しても、失敗だと思ったことはありません。自分の奥深くに根ざした問いに答える、そんな事業を創ってきたからこそ、辛抱強く育てられているのだと思います。

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