斜陽産業が新たな地平線を望むには?
何にチャレンジするのか?
私たちはQWSチャレンジプロジェクト”mock-bank”として、「工場におけるものづくりに携わる人は工場の外でも新たな価値を生み出すことができるか?」という問いをかかげ、工場とクリエイターとのコラボレーションによるプロダクト開発を促進・発信することを目的に、大田区のインキュベーション施設”KOCA”から同じ問いを持つ職人やデザイナーと一緒に活動を行ってきました。 “march on”はその活動の中から生まれたWEBプラットフォームで、具体的なコラボレーション事例の紹介や、異業種同士でのコミュニケーションの取り方の提案(コラボレーションフレームワークの提供)をすることで、プレイヤー同士の相互理解やリスペクトを高めたいと思っております。 また、それに加えてお互いものづくりに携わる者としての「美学」というのも当事者間で共有・共感することができれば、コラボレーションでより良いものがつくれることはもちろん、地方の伝統工芸などより広範のものづくりの領域でも通底するメソッドがあるのではないかと思いました。
なぜチャレンジするのか?
昨今のコロナウイルスによる影響に代表されるように、製造業の中でも特に下請けを担う中小企業は、世の中の情勢によって大きな影響を受けやすい存在です。多くの工場がこの非常事態の不景気による大手の減産の影響を被り、雇用調整助成金を受けながらの短縮稼働や閉業を余儀なくされています。 そもそも、少子高齢化の流れから消費需要は下降しており「ものをつくれば売れる」時代は既に歴史の教科書の中の話になってしまいました。また、世界に目を向けても「ものづくり大国日本」という誇りすら失われつつあるのは、大手家電メーカーなどの苦境を見ても感じてしまうところです。 しかし、だから今こそ、「自分たちのクリエイティビティで何ができるか」「どんな生活に貢献したいか」「どんな未来を実現したいか」など、つくり手たちがもっと自覚的に自分たちの哲学やビジョンを考えた上で意味のあるものづくりをしていかなければならないのではないでしょうか。 とはいえ、個人のクリエイターや町工場の能力には限界があります。だからこそ、意欲や熱量を持ったつくり手同士で軋轢のない円滑なコラボレーションを模索して実践することが必要です。march onはそのような挑戦を皆と進めていくメディアなのです。
どのようにチャレンジするのか?
まず第一にコラボレーションの事例をつくることが大切だと思いました。実際にコロナ状況下の中でも約1年間を通じ、コラボレーションによっていくつかのプロダクトを世に出したり、試作開発を続けたり、企画に携わることができました。この取り組みはKOCAを中心に現場に近いところでも継続しつつ、QWSではその発信としてmarch onの運営に力を入れていきます。また、QWSの中でもほかのものづくりプロジェクトとの連携をすることでmarch onは貢献していきたいと思っております。 第二に、東京都の事業に採択されていることから、いくつかの企業さんと中長期の継続的な取り組みを進めることができています。大田区の試作開発に特化した町工場さんとのコラボレーションフレームワークの共同開発や、クリエイターのコミュニティを持つFabCafe Tokyoさんとの共催シリーズイベント”FABRICATE”の企画運営が行われております。 また、コロナ禍が収束した際には、是非とも様々な展示会に赴いたり、日本各地の工場や工房を見学することでものづくりの現場をもっと知りたいです。心が動かされるものは、自ら体験しないと意味がないと思っているので。
プロジェクトメンバー
応援コメント
何ができそうかぼんやり地図を眺めていたら、京浜島の「BUCKLE KOBO」も大田区だった。なるほど。まずはQWSチャレンジ期間に、一緒に大田区を歩いてみることから始めようか。
デザイナーと高い技能をもつ技術者のコラボレーションによって、新たな価値をもつプロダクトが出来上がることを期待しています。
ただ、誰に、何を価値として提供して、そして事業としてどのように継続させるか?
ということが非常に重要になります。そこをどこまで研ぎ澄ますことができるかが勝負だと思いますので、一緒に頑張りましょう。まずはターゲット顧客を考えることが最初ですね。
リーダーインタビュー
あなたの[問い]は、どのような未知の価値に繋がると考えますか?
カントの美学論についての研究者であるゲルノート・ベーメは著書の「新しい視点から見たカント『判断力批判』」において、
“美しいものを前にして惹起される感情(心の状態)は伝達され、互いに分かち合うことができる。それは何も天才(芸術家)のみがなすことができる特権的な事柄ではない。なぜなら、判定能力は選択能力であり、その能力を駆使し美しいものを自らの周りに蒐集しちりばめることで、天才(芸術家)のみならず、趣味を持つ人間(洗練された人間)も互いに感情を分かち合うことはできるからである。”
と論じており、これは例えば「これって美しいよね」という共感を持った人間同士、いわば趣味を持つ人間同士は、彼らの美学による「社会」を形成するのだということを示しています。ここにおける人間というのは、クリエイターであり、町工場の職人であり、そして彼等の生み出したアウトプットの美しさを愉しむ生活者であると私たちは考えます。
0からものを共につくり出すこと、そして生み出したものの美しさを共に分かち合うことによって、「新しいものづくりによる共同体」の形成が可能であり新たな未知の価値に繋がるものと信じています。
また、「工芸と工業の間にある『新しいものづくり』の交差点」というのは、歴史的に見ても産業革命以降、アーツアンドクラフツ運動やアール・ヌーヴォーなどの芸術運動に代表されるように、生活の中に美を見出すことと大量生産による効率性や利便性との間でのジレンマが繰り返されていることは自明であり、工芸と工業に均整のとれた部分(交差点)を見出すことが現代にこそ重要であるという考えから生まれた問いです。
あなたの「問いの感性」は、どのような経験を通じて育まれましたか?
私は「金属加工工場の町大田区で、鈑金加工業を営む家族」の3代目事業承継者候補として生まれましたが、生まれ育った場所は渋谷区の代々木であり、幼少期には全くと言っていいほど工場や加工現場には触れてきませんでした。なんなら製造業のことを退屈そうなグレーのイメージで見做していました。それでも2代目として工場経営に奮闘する母の姿を見るようになり考えが改まり、私なりに向き合ってきたというのがQWSチャレンジ3期の応募時点での私の心境でした。
そこから半年余りが過ぎ、それなりに工場側の人間として経験と理解を深めていくうちに、芸術や工芸に携わる人々の「工場への視点」というものにも触れる機会を得ました。彼らの言葉として印象的だったのは、「同じ金属を扱うつくり手同士でも考え方やアプローチは全く異なるが、学ぶことに貪欲であったり、細部へこだわる熱意というものには共感するし尊敬する」という言葉でした。そこに、工芸と工業の間の共感や尊敬といった気持ちが交差する点が「美学」なのではないかと確信めいたものを感じたのです。
ステージでの発表の折には多々引用している言葉ですが、留学先のRoyal College of Artで出会ったアイルランド人のデザイナーの友人が言ってくれた「工場、クールじゃん。なぜかって?オレらみたいなデザイナーがいくら頑張っても、形にしてくれる存在が無かったら意味がないからだよ。」という言葉を紹介したと思いますが、私の原動力はこの体験にあります。
また、私は綺麗な線が引けるデザイナーでもなければ、優秀な職人でもありませんが、ブルーノ・ムナーリが『芸術としてのデザイン』で述べた「デザイナーとは、美的なセンスを持ったプランナーのことである」という言葉を信じています。
最後にもう一つ、今回の問いに大きな影響を与えたものとしては、仲の良い工場の社長さんが教えて下さった「”Art”の語源がラテン語の”Ars”とギリシャ語の”Techne”に相当するということから、芸術家も工場の職人も元々を辿ると技術を持った者同士同じなのではないか」というお話です。
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