New Normalにおけるプロジェクトの進め方とは? -多様性を取り入れた価値創造の可能性-

プロジェクト

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これまでQWSを拠点に活動してきたプロジェクトは、コロナウイルス(covid-19)の影響を受け、活動内容の変化や、活動の源泉となる“問い“そのものと改めて向き合う必要性に迫られていました。
QWSチャレンジ生として、QWSが閉館していた期間中も様々な変化や困難を乗り越えながら新たなプロジェクトの姿に辿り着いたお二人に、リアルな経験談と共にこれからの時代に合ったプロジェクトの進め方についての考えを伺いました。

テキスト=中島貴恵、写真・編集=杜多美咲、渡辺舞子

スピーカー
ぼく倫プロジェクト 発起人:高田将吾 さん
繋がる本棚 from 自由丁プロジェクトリーダー・エンジニア:小山将平さん
モデレーター
SHIBUYA QWSコミュニティマネージャー:杜多美咲

プロジェクト型の組織とは?

SHIBUYA QWSコミュニティマネージャー 杜多美咲  (以下、杜多):本日はよろしくお願いします。まず初めに、改めてそれぞれのプロジェクトの紹介をお願いします。

ぼく倫プロジェクト 高田将吾さん(以下、高田):「ぼく倫」とは、これからの繋がり合う世の中で持っていたい倫理観を考え、SNSで発信することで人々の倫理観のアップデートを目指す活動です。僕自身、仕事で新規事業の立ち上げに関わることがあるのですが、その際に様々な人の倫理観を知らないといけないと感じることが多々ありました。まずは自分自身が倫理観について勉強して、世の中に発信したいと思ったのが活動のきっかけです。

繋がる本棚 from 自由丁プロジェクト 小山 将平さん(以下、小山):もともと僕達が蔵前で営んでいる「自由丁」というお店には、訪れた人が本を交換する「繋がる本棚」があります。本と一緒に元の読み手からの手紙を受け取れるというもので、本が繋がっていく記録をウェブで見られるように進めているところです。そんな「繋がる本棚」を、自由丁以外の色々な場所に置いてみたらどうなるか?を試してみたく、QWSチャレンジに応募しました。

杜多:ありがとうございます。今回「プロジェクト」をテーマに対談を始める前に、プロジェクト型の組織の定義についてお話したいと思います。

そもそもの「組織」の定義は文献により様々ですが、成立要件として3つあると言われています。具体的には、「①共通の目標を有しており②目標達成のために協働を行う③何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーション」です。また、経営学の場面では「1人の人間の力では実現できないような困難な目標を達成しようとするときに生じる複数の人間の協同」と謳われています。個人的に、これらの定義を考える中で「1人の人間では実現しないような複数人での共同」という部分が肝であると感じています。
近年では、組織という言葉と共に「ダイバーシティ」、日本語では「多様性」という言葉が使われることが増えています。複数人が集まる中で、目に見えない内側の違いから表面に現れる違いまでさまざまな多様性が存在します。プロジェクト型組織は、先述した組織の定義に「個々の違い=特徴 を活かして活動を進めていく」という、ダイバーシティの考えを掛け合わせた形で表現されると思っています。昨今のコロナの影響で、物理的な距離もほぼなくなって来ている中、それぞれの強みを活かすプロジェクト型組織のニーズは、今後どんどん高まっていくように感じています。

※ちなみに、QWSでは「共通の問いを持った3名以上のチーム」をプロジェクトと呼んでいます

多様性はプロジェクトにどんな可能性をもたらすか

杜多:では早速ですが、それぞれのプロジェクトの中にある多様性についてお伺いしたいと思います。まず高田さん、ぼく倫プロジェクトにはどのような多様性があるとお考えでしょうか?

高田:まず浮かぶのは、メンバーの多様性です。ぼく倫のSlackには25名ほど参加していて、男女比は大体半々くらいです。一方で年齢の多様性はなく、メンバーのほぼ全員が26歳~28歳(2020年6月現在)です。背景として、あえて年齢を絞っているという側面がありました。ぼく倫の目的が「自分たちが知りえない倫理観を知ること」なので、前提としてまず「自分たちが知っている倫理観」を定義することが必要であったため、それまで触れてきたメディアや環境など、年代で共通する部分をなるべく多く共有できるメンバーになりました。

ただ、活動を進めていく中で同い歳でも共感できない人もいれば、企業で幹部をされている先輩方の中にも、共感できる人もいることに気付きました。ぼく倫の目指す「自分たちが知りえない倫理観を知ること」を実現していくためにも、これからは年代を超えた人たちも巻き込んで行きたいと考えています。 

ぼく倫がこれまで主に発信活動を行ってきたツイッター。ツイッターで呼び掛けたことから活動が始まり、プロジェクトの原点にもなっている。

杜多:次に小山さんへお聞きします。繋がる本棚はプロジェクトの活動内容が変わった後も、メンバーやメンバー以外の人を幅広く巻き込んでいる印象がありました。そのことは活動にどのような影響をもたらしましたか?

小山:色々な人に助けてもらい、支えてもらったことで得た一番大きなものは安心感でした。友達は「巻き込む」というよりも「手伝ってもらう、一緒に遊ぶ」という感覚の方が強かったです。友達以外にも目上の方や経営者の方にも期待を込めて応援していただき、以前はプレッシャーを感じていましたが、クラウドファンディング(以下クラファン)に挑戦する中でピュアな応援をしてもらえていると感じるようになり、安心感に変わりました。かつて感じていた荷の重さは今では全くなくなりました。

コロナの影響で蔵前で営んでいるお店の休業を余儀なくされた中、新たな商品開発に向けた挑戦のためクラファンを始動。結果として、222人から支援され新たな挑戦をスタートできた。

杜多:新たに人を巻き込むときに気を付けていたことはありますか?

小山:目上の方であれ、友達であれ一方通行な形での「お願い」はしたくないと思っていて。相手の人にも楽しんで欲しいなと。僕らがテイクするだけではなく、同時に相手にも楽しんでもらえる内容であるか?というそもそもの部分を常に考えてきました。

杜多:こちらからただ頭を下げてお願いするのではなく、お互いがフラットでリスペクトし合う関係性を育まれているように感じます。その結果がクラファンの達成として表れているのかもしれないですね。

コロナ渦で感じた率直な想い -困難が導いた新たな道

杜多:続いて、コロナの影響によりプロジェクトで変化したことについてお伺いしたいと思います。政府による自粛要請がなされたとき、それぞれどのようなことを考えていましたか?

高田:3月末くらいに仕事が在宅になりましたが、僕個人としての変化は家から出なくなったことだけでした。ただニュースやツイッターなどを見ると、困っている人が大勢いる。そんな中で自分には何が出来るんだろうという感覚でもやもやしていました。

それまでは日々のニュースから話題を取り上げ、ぼく倫のアカウントをフォローしていただいている方々がどう思うかツイッター上で質問する活動をしていて。コロナがなければ、その活動をオフラインでのワークショップとして実装予定でした。小山さんのお店の自由丁で行おうとして内覧にも行きましたが、イベントできる状態ではなくなり中断しました。混乱が起きている状況下で、目先のニュースについて問うことは、辛くなる人を生むかもしれない。それでは誰も幸せになれないから、短期的なスパンではなく、より長いスパンで活動内容を考えないかと、ぼく倫を一緒に立ち上げた吉備(メンバーの吉備友理恵さん)と話し合い、4月の頭に活動を一旦ゼロベースにしました。

杜多:大きな変化がある中で、そのようにスムーズに方向転換できた要因は何だとお考えでしょうか?

高田:ぼく倫はきちんとした組織というより、勉強会という要素が大きいのが大きな理由かもしれません。QWSに入るから「プロジェクト」を名乗っていたけれど、アウトプットだけが目的ではなく、オンラインでゆるい繋がりを持ちながら意見交換することを活動の目的としています。ただ、オンラインだけで実のある活動を進めるのは難しく、オフラインの議論の場としてQWSを使っていました。もちろん、そんな体制を取っていたから、QWSのメンターの方の一部からは「何がしたいか分からない」と言われたときもあり、どのように活動をもっと形にして社会に発信していくのかはQWSで悩んだことの一つです。

杜多:自分とは真逆の考えの人から意見を投げかけられることも、ある種のダイバーシティと言えそうですね。予期していない別の方向からボールが飛んでくるからこそ、考えたことなどはありますか?

高田:パッと実践できたかは分かりませんが、最後のQWSステージでのプレゼンに辿り着けたのは、QWSの中で日々投げかけられてきたメンターの質問に答えようと考え挑戦してきたからだと思います。

QWSステージで発表を行う高田さん

杜多:違う視点が新しい価値の創造に寄与した出来事だったように感じますね。

小山さんはプロジェクト方向転換を行う際、どのような流れで進みましたか?

小山:僕は、日々その時々思ったことを自由丁HPの「今朝の落書き」のコーナーで毎日文章にして発信しているのですが、振り返ると自粛期間中の印象に残っている投稿が2つあります。1つは「家にいてじっとしているだけで社会の役に立つという奇跡が起きている」といったポジティブな感想。2つ目は、自由丁の「TOMOSHIBI POSTという1年後の自分に手紙を書くサービスに対して。コロナの前はサービス自体の存在価値みたいなものを外から問われていたのですが、ある人の「今、社会が希望を求めているね」との言葉を聞いて、自分に言われたように感じました。「未来を照らす」というサービスのコンセプトが、先行きが不透明な今だからこそ、必要とされているんじゃないか?といった想いでした。そこから、繋がる本棚から自由丁そのものへのクラファン実行へと方向転換していきました。

未来の自分へ手紙を送ることのできるTOMOSHIBI POSTの一例

杜多:実際に新しい方向へ進んでいこうとする時、他のプロジェクトメンバーはすぐに納得されていましたか?

小山:繋がる本棚にコミットしていた人達には、僕が新たに違う旗を立てたときに「一緒に行こう」とは言えず、そのメンバー達のコミット量は減りました。それでも引き続き手伝ったりアドバイスをくれたりしました。申し訳ない気持ちもありつつ、心からの自分の気持ちはオンラインではメンバーへ伝えきれなかった。とはいえ、新しい旗はもう立ててしまい進んでいかなければならない。やるせなさを感じたし、彼らに対して至らなかったという想いは未だにあります。ただ、その想いを前提に新しい旗を立てて新たな挑戦をやり切ってからの反省だろうと思っています。また、以前はクラファンにとても苦手意識がありました。けれども自由丁というお店を閉めなくてはならず、ほぼ仕事がなくなってしまったことで挑戦に至りました。

旗を立て、街をつくる - 未来へ向かうプロジェクトのこれからとは?

杜多:ここからは未来の話についてそれぞれ考えを伺いたいと思います。オンラインの比重が増えるコミュニケーションへと変化する中、会えなくても信頼関係あれば共に活動できるという考えや、一方でメンバー全員で同じ熱量を共有するにはオフラインが必要という考えなどもあるかと思います。 言わば「一隻の船」であるプロジェクトがこの先、激動の時代という大海を進んでいくためには何が必要であるとお考えですか?

高田:直感的には、これからもオフラインで集まる場やリアルなコミュニケーションが必要だと感じています。僕自身、自分の考えだけ発信するよりも、他の人の考えを聞き、それぞれの価値観を共有しながら考えていきたいと思っていて。活動の目的を考える上でも、共通の社会像についてメンバーと話し続けることが必要で、Slackやオンラインコミュニケーションだけでは主体的に関われないと限界を感じています。一方で、オンラインでのコミュニケーションのメリットとしてシームレスに毎回の宿題を持ち合ったり、ということができていたのでそれをオフラインで今後どう積み上げるか?は課題だと思っています。 

ぼく倫がコロナ渦で活動の方向性を改め、1人1人に倫理観に関するインタビューを実施してまとめあげたレポートの一部。アンケートに回答した人は無料でダウンロードできる仕組みとなっている。

小山僕はそもそもプロジェクトは一隻の船ではなく「旗」を立てて街を創ることだと思っていて。僕はリーダーでも代表でもなく、旗を立てただけでそこに人が集まってくれたように思います。以前は僕も船のイメージを持っていましたが、クラファンを通して地続きの「街」のようなイメージに変化しました。蔵前という街がまさにそうで、お客さんも友達のように接してくれる。200人以上の方がクラファン支援してくれたのですが、物理的な船を考えてみたら全員は船に乗りきらない、沈んでしまうなと(笑) 。これまでのアニメのワンピースのような船のイメージは今の時代には通用しない気がしています。

高田:僕も旗を立てる、という考えにとても共感します。ぼく倫も僕がTwitterで旗を立ててみたら、そこに興味を持って参加してくれる人が集ってくれた。クラファンはお祭りっぽいですよね。僕らはまだ街として形成されていなくて、砂漠に旗を立ててイベントをしてみたという感じです。

小山QWSステージでもプロジェクトがそれぞれ旗を立てて街を創っていく様子を感じました。大航海時代の中では、海賊と海賊が出会ったらお互い奪い合う関係だけれど、QWSステージに参加したプロジェクトはそれぞれ「私はここに立っています」という旗を立て、「気になったら話してみましょう」と緩い感じで扉を開いている。それが街みたいだと思いました。他人に話しかけるには勇気が必要で、簡単ではないと思っています。だから自分達の方法で自分達らしく、僕達でいえば文章やラジオで「こんな人間です」と発信し続けて悪い奴じゃないと分かってもらうのが大事だと考えています。旗のもとに人が集まったり入れ替わっていくことで、進みは遅いかもしれないけど時代に合わせてプロジェクトがリデザインされ、面白くなっていくのではないかと思います。

QWSステージで発表を行う小山さん

杜多:プロジェクトは船ではなく街である、と。その街の一部にQWSがあると嬉しいのですが、どのような役割を担っているのでしょうか。

高田:QWSは国際会議のようなイメージです。「自分の街はこうだけれど、そちらはどうですか?」と他のプロジェクトに聞いてみたいとき、「こちらと協力して一緒にやってみるのはどうですか?」と繋いでくれるような。

小山:僕は、アニメのポケモンの始まりのマサラタウンのようにも感じています。QWSがすごいのは、結果の形を全くデザインしないことだと思っていて。QWSへの入り口の「問い」を評価してそこからどう変化しても、どんな結果でステージに立ってもそれを批評しない。そんな場所はこれまで世の中になかったと思うし、コミュニティセンターのような印象があります。

杜多:ありがとうございます。それぞれの考えるQWSのイメージはとても興味深いです。プロジェクトの活動において、QWSが重要な役割を担えていることを嬉しく思います。今後のプロジェクトの展望について教えて下さい。

高田:活動の一環でレポートを作る際、一人の人とじっくり価値観について話したことが印象深かったので、これからもインタビューを続けながら多様な価値観を知っていきたいと考えています。5月以降も世の中では悲しい出来事が多発していて、そのような出来事の1つ1つに向き合う時間を作りつつ、プロジェクトとして活動を続けていきたいと思っています。

小山:QWSステージでも発表したのですが、新たに「物事の向こう側に人の存在をより感じられるには?」という問いが浮かびました。「繋がる本棚」も「TOMOSHIBI POST」も、人を感じるという共通点がある。そういったものを増やしていけたら、人が人を思いやれる優しい社会に近づいていくのではと思っています。

ーそれぞれのプロジェクトが、QWSで活動を始めた当初から困難を乗り越えながらも新たな道を切り拓き歩み始めています。その背景にはチームメンバーと共に真っ直ぐに困難に向き合い続けたり、色んな人を巻き込み多様性を取り入れたりすることでプロジェクトを進化させていったストーリーがありました。

新しい時代の潮目の中で、これからもSHIBUYA QWSは様々な問いから生まれたプロジェクトの活動を応援しています。

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高田将吾

ぼく倫/発起人

高田将吾

ぼく倫/発起人

「便利はいいから、楽しいをちょうだい」を座右の銘に、サービスデザインを行うデザイナー。個人の価値観を起点にサービス開発をしていく必要性を感じ、社会課題解決に向けて動き出す人々の価値観を掘り下げて理解するため「ぼくらの倫理」を立ち上げた。

小山 将平

繋がる本棚プロジェクト/リーダー

小山 将平

繋がる本棚プロジェクト/リーダー

東京・蔵前「自由丁(https://jiyucho.stores.jp/)」オーナー、(株)FREEMONT代表。1991年生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。米国ワシントン州ベルビューカレッジIBPプログラム修了。デジタルハリウッド大学主催G’s ACADEMY LABコース修了。G’s ACADEMY在学中の2017年、同期生を中心に(株)FREEMONTを起業。未来の自分に手紙が送れるWEBサービス「TOMOSHIBI POST」、レターセット「TOMOSHIBI LETTER」の販売、2019年8月より東京・蔵前にて、未来に手紙が送れるお店「自由丁」をオープン。並行して、若手アーティストの作品レンタル、販売を行うアルテル(株)も2019年に創業。

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