「人と技術が共生する未来とは?」一人ひとりが問い直す『自分のあり方』no.8~10

クエスチョンカンファレンス

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食、老後、都市、学び、多様性、家族、公共をテーマに、多様な視点で未知の問いについて考えてきたクエスチョンカンファレンス。第8回から第10回はオンライン開催となりました。テーマは、「スポーツ」「つながり」そして「移動」です。

この3つのテーマの共通点から見えてきた未来の可能性を、SHIBUYA QWSコミュニケーターの長谷川がレポートします。

クエスチョンカンファレンスとは?

多様なバックグラウンドの登壇者が集い、多様な問いを混ぜ合わせながら未来の可能性を探るトークカンファレンス。素朴な疑問から哲学的な考察まで、まだ答えにならない視点や意識が交差することで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。新しい問いが立ち上がる瞬間をお届けします。

ユニークな自分って?

第7回のテーマは公共でした。「みんな」について問いを深めていくうち、また一つ問いが浮かんできました。「自分」についてです。働く自分、子育てしている自分、ひとりでいるときの自分。様々な場面での自分がいますが、一体、自分とは何でしょう。私たちは、「自分」を知らないまま、「みんな」を考えていたのかもしれません。

COVID-19の影響はあっという間に世界中へと広まり、多くの人が、会社や学校などと強制的に分断される経験をしたと思います。この経験は、「自分とは何か」を考えるきっかけになったのではないでしょうか。

今まで自由に出来ていた「会う」や「触れる」ということ。それが叶わないとき、スポーツでできることは何でしょう? 第8回は「スポーツで、いま何ができるのか?」 をテーマに、医療、ウェルビーイング、VRの視点から「競技/娯楽」がもつ可能性を考えました。

スポーツって、勝敗を競うだけじゃない

ゲストには、長期療養のこどもの支援を目的にスポーツを活用するNPOの代表をつとめる北野華子さん、ウェルビーイングと身体感覚の研究者である渡邊淳司さん、触覚からVRの可能性を拡げる慶應大学の南澤孝太さんをお迎えしました。

「スポーツとは?」という問いに、3名に共通していた答えは「ルールがあり、体に根ざしたコミュニケーションである」ということ。

南澤さんが紹介してくださったのは、地域の伝統からスポーツをつくるというお話です。例えば岩手県。岩手県の県名の由来の1つともされる、鬼の手形が残る岩の伝説から身体性を抽出し、お祭りに近い感覚で、文化やその地域のもつべき共通体験をスポーツとして作り出します。

北野さんは、ご自身の活動を進めるなか、子どもたちが自ら作り出し、協力し、応援し、チームを超えた繋がりに歓喜する姿を目にするそうです。ルールが共通言語として働き、方向性が統一されてコミュニケーションが深まるのかもしれません。

また、「応援」というのはとても不思議な力を持っています。プレイヤーのパフォーマンスを最大限に引き出し、時には、選手とサポーターの枠を超え、国が一体となることもあります。スポーツには、意図せずとも人と人の間に共通点を作り出し、「つながり」を生む役割があるように感じます。

 

これからスポーツはどう変わっていく?

スポーツの魅力はまだまだありそうですが、今、気になるのはデジタルスポーツの可能性。通信技術は瞬く間に発展し、様々なことが画面上だけで体験できるようになりました。オンラインでは、どのように「つながり」をつくっていくのでしょうか。

現在の社会状況には、こんな側面もあるかもしれません。渡邊さんは、このように語られていました。「現在のような直接触れ合えない状況だからこそ、自分の身体や他者との関係について意識的に考える必要があります。そこでの新しいつながり方を生み出すことが、未来の共生社会の形に繋がるのではないでしょうか。」

年齢や性別、身体や国というあらゆるボーダーを超えて、人々がニュートラルにつながるきっかけを作り出すことができるのは、オンラインならではの魅力だと感じています。これから生まれる新しいスポーツに期待が膨らみます。

見て見ぬ振りをしていた文化の遅れ

今後、スポーツの潜在的な価値を引き出すには、「デジタル」の力が必要不可欠となっていきそうです。第9回では、中国のデジタル活用に明るいマーケターの黄未来さん、国際政治学者の詫摩佳代さん、NTTドコモの担当者である秋永和計さんをゲストに迎え、「いま『つながり』が持つべき価値とは?」をテーマに、 5G、地政学、中国から接続性のこれからを考えました。

中国では、アリババグループによって物流網が整えられたことで、スマホ普及率も高くなり、この10年で内陸部と沿岸部の距離はとても近くなったと黄さんは話します。COVID-19が流行する前から、決済は顔認証で行われ、スマートな方法にどんどんシフトしていったそう。

日本でも、光回線やモバイル回線の普及度は高く、インフラ整備においては一定の成果が見られ、デジタルな社会に多くの人が追いついてきたと秋永さん。一方で、「仕事」という文化的な問題が追いついていないとも指摘されていました。

話題になった「はんこ文化」の不便さも、この社会状況だから浮き彫りになった遅れのひとつです。通信技術の発展の波に乗れる国と、そうでない国で差が出ているとのこと。他人と自由にコミュニケーションがとれるという価値を守ることが、今後の課題だと感じます。

デジタルが守っていたものとは?

詫摩さんは、国家間のつながりが濃くなったがゆえの問題点が、COVID-19をきっかけに噴出していると話します。ただ対立の陰では、例えばWHOとアメリカCDCの協力関係は継続されるなど、水面下での保健協力は粛々と遂行されているのだそう。大きな国家間の繋がりとは無関係に、小さなつながりは、テクノロジーを使って拡大しつつあります。

課題があるとはいえ、デジタルの普及によって「つながり」の範囲は確実に広くなっています。通信技術の発展は、この春の外出自粛期間を支えた大きな要素のひとつです。「会えない」「分からない」という不安が緩和されたのは、通信が大きな役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。

デジタルの繋がりが強固になるほど、オンラインで出来ることが増えるほど、「移動」の必要はなくなっていきます。第10回では、「人は何のために移動するのか?」をテーマに、モビリティのこれからを考えました。

ハイブリットな移動が成長を加速させる

第10回のゲストは、マイクロモビリティに取り組む企業家の中根泰希さん、都市と人の流れの関係を解き明かす研究者である廣井悠さん、中世の移動を資料からひも解く研究者の黒嶋敏さんです。

移動の魅力はどこにあるのでしょうか。鎌倉時代、人は一週間かけて京都から鎌倉を、徒歩で移動したのだそう。黒嶋さんは、中世の人にとって、旅そのものが楽しかったのではと話します。

旅をすることで人と出会い、知的になり、世界が広がります。時に、新しいものや異文化に触れると混乱することもありますが、それすらも、自分の可能性を広げる自由で楽しいものではないでしょうか。変化というのは、本質的には、ごく自然なもので、本能的に求めているものではないかと思います。

廣井さんの研究分野では、災害時に避難行動を拒否する人などが長年問題になってきたそうです。自主的でない移動が苦痛という人も多いのではと話されていました。確かに、通勤や通学といった移動はストレスが多いと感じますが、旅行やレジャーの移動は無条件に楽しいものです。手段としての移動を、目的としての移動に変えるには、どうしたら良いのでしょうか。

未知の魅力を発掘する、新しい移動のかたち

6月に入り、国土交通省は、路上営業に対する道路占用料を免除する緊急措置の実施を発表しました。海外の動きも踏まえ、廣井さんは道路空間が新しくなるのではと話されます。規制は緩和されつつありますが、いま大切なことは、以前の状態に戻すことではなく、COVID-19をきっかけに、新しい視点を持って自分や自分の周囲を明るく豊かにする方法を考えることだと考えます。

中根さんは、マイクロツーリズムという自宅から1時間圏内での「地元めぐり」が景気回復に有効なのではと話します。また、ご自身の電動キックボードのシェアリングサービス事業について、電動キックボードは、乗り降りのしやすさから「見たい」や「行きたい」をスムーズに叶えることができ、衝動的、直感的に行動できると魅力を語られていました。

現在、駅周辺や観光地に盛り上がりが偏っているように感じますが、こういった取り組みが広がれば、今まで知られていなかった地元の魅力や、新たな価値を発見できるようになるかもしれません。移動の変化で道が変わり、街も変わっていきそうです。

今までの自分を超えた先にある調和した社会とは?

黒嶋さんは、長い自粛期間により、他者へ攻撃的になってしまうことを懸念されていました。まるで、縄張り意識が強く「よそもの」へ抵抗が残っていた日本中世のように。

今回のCOVID-19のような大規模な感染症や災害は、見えていなかった課題を顕在化させることがあります。もしかしたら、この他者への抵抗もそのひとつかもしれません。多様性や共生社会という言葉が先走り、本質を見落としてしまっていたのかもしれません。

テクノロジーがどんどん発展し、いくらでも繋がることができるようになった現代。あふれる情報に溺れてしまう前に、私たちがすべきなのは「自分のあり方」を問うことだと思います。一人ひとりが自分を取り戻したその先に、調和した社会があるのではないでしょうか。

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