「時空をこえた先の公共とは?」みんなを改めて問い直す_クエスチョンカンファレンスno.07

クエスチョンカンファレンス

  • #藤村龍至
  • #畑中章宏
  • #伊藤大貴

第1回目から様々な切り口で“未知の問い”について考えてきた『クエスチョンカンファレンス』。食、老後、都市、学び、多様性、家族というこれまでのテーマに続き、第7回目である今回のテーマは「公共」です。


テキスト=中島貴恵 写真=コムラマイ 編集=矢代真也

クエスチョンカンファレンスとは?

多様なバックグラウンドの登壇者が集い、多様な問いを混ぜ合わせながら未来の可能性を探るトークカンファレンス。素朴な疑問から哲学的な考察まで、まだ答えにならない視点や意識が交差することで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。新しい問いが立ち上がる瞬間をお届けします。

スピーカー

藤村龍至

建築家。東京藝術大学准教授、アーバンデザインセンター大宮副センター長、鳩山町コミュニティ・マルシェ総合ディレクター。

藤村龍至

建築家。東京藝術大学准教授、アーバンデザインセンター大宮副センター長、鳩山町コミュニティ・マルシェ総合ディレクター。

畑中章宏

民俗学者、作家。

畑中章宏

民俗学者、作家。

伊藤大貴

元市議会議員、起業家。株式会社Public dots & Company代表取締役。

伊藤大貴

元市議会議員、起業家。株式会社Public dots & Company代表取締役。

登壇者が普段向き合う「公共」「みんな」とは?

建築家の藤村龍至さんは、これまで多くの空間を手掛け、複数の自治体で公共施設の設計にも携わってきました。2013年のあいちトリエンナーレでの架空の庁舎建築を提案するプロジェクトでは、ウォークスルーアンケートを通して来場者から多くの意見を集めましたが、「ほとんどの意見が同じ方向を向いている中、デザインを変えなくては、という気づきをもたらしたのは、他の人が言わないようなマイナーな意見」であったと話します。

一方で民俗学、特に災害民俗学が専門の畑中章宏さんによると「民俗学とは『馬の蹄ほどの水たまりに河童が千匹いる』『障子の桟には千匹の狼が隠れている』など、実際の数値化とは異なる想像もつかないような思考、感情を扱う学問」なのだそうです。

さらに元横浜市議会議員で、横浜市長への出馬を経て、QWSのブースターパートナーである株式会社Public dots & Companyを設立した伊藤大貴さんは、自身の議員生活や市長選挙の経験から「政治家には、一般の人が想像するような暇な人だけでなく、まじめに働いている人もいる」ことを知っており、「デジタルによって行政のあり方が変わりつつあるいま、公と民をつなげたい」との理念を持っています。

そんな3者3様の背景を知ったところで、登壇者それぞれの問いに沿ってのクロストークが始まります。まず提示されたのは、こんな問いでした。

公共とパブリックという2つの言葉にはどんなイメージの違いがある?

伊藤さんが今日のために持ち寄ったのこの問いに対し、登壇者それぞれから異なる意見があがりました。

まずモデレーターの矢代さんは、編集者という職業柄、パブリックと聞くと「パブリッシュ(出版)」というイメージが浮かび、対して公共は「みんなのもの(共有されている資産)」というイメージなのだそうです。

藤村さんは建築の世界での解釈を教えてくれました。「構造的には、まず個室という私的な空間があり、その次にリビングという共的な空間、コモンがある。その外、つまり家の外が公的な空間、パブリックになる」。また、建築の発注者という観点からは、パブリックは行政、その対義語としてプライベートは民間というイメージを持っているとのこと。

さらに畑中さんは、「民俗学においては、パブリックという言葉はあまり用いずに、公共性・私性・その間の共同性という3つの世界があると考えます。また、公は建前、私は本音という解釈で、日本の人間関係を表すこともある」と話します。

それぞれの答えを聞き、伊藤さんは「言葉は、自分がどこに立っているかで全く意味の違うものになって面白い」とした上で、「公共=行政と置き換えられてしまうことがある。パブリックという言葉を用いることで、行政以外にももっと色々な関わりの余地が生まれる気がする」と、過不足なく伝わるための言葉の使い方の難しさや、言葉一つを置き換えることだけでも物事の可能性が拡がることを感じているようでした。

公共性と公益性のイメージや違いは?

次に畑中さんは「分からないから皆さんと考えたい。公益性という言葉をよく耳にするが、響きは似ていても時に公共性と相反することもあるのでは?」と議論を続けます。

そして以前、取材に訪れたとある村では、「この土地の主要産業は公共事業です」と言われて驚いたという話をされました。畑中さんはその答えを聞き、「では公共事業をもたらす災害は、土地にとって喜ばしいことなのか?」と疑問に感じてしまったそうです。

畑中さんの発言を受けて藤村さんは「日本では1990年代のゼネコン汚職などを経て公共事業は『みんな』のためではなく一部の利権のための事業、というイメージが定着したが、もともと日本列島という一体の経済圏を支えるインフラを約50年かけて作り、成立させてきたのも事実。そのシステムに依存している地域はあるが、それにより大都市と地方都市の経済格差が解消された面もある」と、日本の近代化と公共概念の成立を多面的に捉えているようです。

さらに、高度経済成長と公共のつながりに対してより切り込むかたちで、藤村さんによる次の問いへと話はつながっていきます。

世代を超えた公共はいかに可能か?

藤村さんは、実際にまちづくりの現場で感じる公共に対する世代間のギャップを指摘します。

「自治会の代表は75歳以上の男性で立派な組織体制を持っているところが多い。彼らは口を揃えて次の担い手がいないと言うが、下の団塊の世代は自発性にこだわるのでまちづくり協議会やNPO法人など自治会とは別の法人を立てようとする。ただその世代は企業などで安定的に雇用されてきた世代なので自分たちの活動でお金を稼ぐことには抵抗がある。それだと若い世代は入って来ない。それでいつも、イベントで提供するコーヒーを50円にするか500円にするのかで揉める」のだといいます。

日本でこういったギャップによる摩擦が生じる中、伊藤さんから、世代も含め様々な人々の意見を包括した事例として「ドイツのハンブルクでのパーク・フィクション」が紹介されました。

ハンブルクでは、かつて貧困地区であった土地に再開発の計画が立ちましたが、住民は反対。始めは行政と住民との二項対立が起きていました。しかしそこでは、アーティスト達が中心となり住民を巻き込んだプロジェクトが生まれます。その土地でピクニックやイベントを開催しながら「どうなったらみんなにとって良い空間になるのか?」を描き続け、結果として再開発は中止となり、その土地は公園になりました。

※伊藤大貴さん提供写真

※伊藤大貴さん提供写真

その公園では、同じ空間にスケボーに乗る人もいれば赤ちゃん連れもいて、バスケコートもある。意思決定のプロセスに住民が参加したため、危険だからというだけで使い方に制限を設けすぎずに、幅広い人々の憩いの場になっているのだそうです。また、自治体側は公園内でお金を稼ぐ行為は禁止しているけれど、カフェは投げ銭制が認められるなど、できる限り誰もが納得する形での運営がなされているとのことです。

昔と今、公共はどう変わる?

公共という観点からすると、昔から続く「みんなの行事」とも言えそうな「お祭り」は、現在も「みんなのためのもの」であり続けているのでしょうか。

畑中さんは「祭りがあることで、年に1度その土地にたくさんの人が来ることをいいと言う人もいれば、そのための準備や後始末も含めて面倒だと反対する人もいる。また、五穀豊穣や先祖の供養といった祭り本来の目的も、現代、たとえば農業をする人が減った中での矛盾が生じている」と説明し、さらに「昔ながらの形式を継承するべきだという意見もある。それを面倒だという人がなぜそう感じるかというと、お祭りという形式が目的になってしまい本質的に住民のメリットになっていないからなのではないか」と続けます。

そんな時代の変化に対して、公共はどのように変わっていくのでしょうか。

藤村さんは「街の中で公共が持っている空間は川や公園などをふくめ50%くらいある場合もある。ただそこでたとえばマーケットを開催するなど、公共空間を行政以外の者が占有して賑わいをつくることを上の世代は『私物化』であると非難し、若い世代は『ジブンゴト』だと美化する。ここにも世代間でのギャップがある」と話します。

公共の空間を動かす人が増えること。これは行政の範囲が拡がっているのかというとそうではなく、「むしろ行政が動かせる範囲は狭くなっている」と伊藤さんはいいます。ただ、「空間という資材はあるので、企業、民間でうまく使っていけば良いのではないか」というのが伊藤さんの持論です。

さらに藤村さんはこう説明します。「かつて行政が持っていた権力、企画力がなくなってきて、行政は規制緩和だけを行い民間企業に企画を依頼するようになった。今皆さんがいるQWSも、公共施設ではなく、民間の鉄道会社が出資してできた『公共貢献フロア』と呼ばれる空間です。しかし、そこで今まで行政が担っていた『みんなのもの』を、企業という利益を追及する存在が担うようになったことで偏りが生じることもある。これが現在の日本の公共空間が直面している事態なのです」。そうなった時にこそ、「本当に公共なのかを見る『裁き』の視点を持った存在が必要になる」のだと続けます。

伊藤さんは「企業に公共性をインストールする存在は、必要だけれどあまり見えてこなかった。それを可視化して公と民をつなぐ、そのために会社を立ち上げた」との想いを語り、そのようなコンセプトを持っているからこそ、QWSのブースターオフィスへの入居を決めたことも話してくださいました。

藤村さんは伊藤さんの話を受け、改めてこう語ります。「政治と建築は、一見、人々のためとなる仕事をしていないと思われがちだが、実は公共と民をつなぐ2つの大きな存在である」と。

「自分は政治を離れて民間でやっていくことにしたから、政治に価値があると発言できるようになった。同じ発言を政治家自身がすると、自分の選挙のためと思われてしまう」伊藤さんは、公共と民の間で働きながら感じたことを打ち明けます。

ここにも、登壇者それぞれの立ち位置による公共との関わり方、その中で感じているやりがいや難しさが垣間見えました。

そしてカンファレンスの終盤に差し掛かったころ、畑中さんのとっておきの問いにより、参加者は時空をも超えた公共をイメージすることになります。

ダイバーシティに死者は含まれるか?

「民俗学の視点では、今ここにいない存在も含めて、日本の社会は形作られて来た」。かつて柳田国男が農業指導、農業政策を行う際、死者とこれから生まれる未来の人のことも考えていたことを例として挙げながら、災害で亡くなった人はこれからの街の変化を見てどう思うだろうか?という視点が復興には必要なのではないか?と畑中さんは問いかけます。

「死者は選挙の票を持たず、市場にお金を落とすこともできない。しかし、日本の伝統的な民家には、年に1度の供養をするための部屋や、死者がいるための部屋が作られている。今の人間は、この空間、この時間しか存在していないと捉えがちだが、民俗学的には、神様や妖怪といった姿でいま現在とは違う世界がある」

1940年に東京オリンピック会場として予定されていた駒沢公園は、その前は狸の出る山だったこと。QWSのある渋谷という地には、そう遠くない過去には「春の小川」の歌のモデルになった渋谷川が流れていたこと。万博で賑わった太陽の塔のある場所は、平安時代には千手観音の祀られるお堂だったことーー

「そういった今とは違うかつての姿を知り追体験をすることで、“いまここ”とは別の時間、空間があると感じて生きることができたら、もっと豊かになれるのではないか」

さらに藤村さんからの「過去に想いを馳せることには具体的な意味合いもある。たとえば首都直下地震が近い将来起きたらと想定し、過去の災害の記録が呼び起されることで、そこから予測を立てる。過去の出来事への畏怖を忘れてしまうと、未来への予測も非常に便宜的になってしまう」との言葉を受け、畑中さんはこう続けます。

「自分が生きているのとは別の時間も感じる、そして長いスパンで考えること。それは想像力とは違う形で、誰もが持っている感覚だと思っている」

そして、改めて「みんな」を問う

イベントの最後は、クエスチョンカンファレンス定番の、参加者同士のディスカッションの時間。

登壇者のクロストークを受けて改めて「みんなって誰のこと?」をテーマに3人一組で話し合いました。「みんな」とは誰か。その答えは出ずとも、自身の職業を通して感じる感想を述べる声や、「公共の恩恵を受けられずに“あぶれている人”が、妖怪の姿で描かれるのではないか」と言った声もあがりました。

そして、藤村さんの言葉がカンファレンスの結びとなりました。

「妖怪と現世をつなぐ存在を、公共と呼ぶのかもしれない。『みんな』とは、現世と妖怪を含んだ、包括的な集団を指すのではないだろうか」

今回のテーマである公共、そして行政という言葉。これらの言葉を日々身近に感じている人もいれば、そうでない人もいることでしょう。しかし、生きていれば役所に行く用事が生まれ、公共料金を支払い、公共施設を使うなど、誰もが関わりを持っていることだと言えます。

生きている人間とは異なる存在や、“いまここ”ではない時間・空間を感じてみることも、すぐに受け入れられる人もいれば、ピンとこない人もいるでしょう。けれど実は、亡くなった人に心の中で話しかけたり、これから生まれてくる存在に呼びかけたり、誰もが知らず知らずのうちに行っていることなのかもしれません。

自分には関係ないと思っていた物事にも自分もつながっているのかも知れない。時にそうした視点を持つことで、これまで気づかなかった「みんな」が見えてくるのではないでしょうか。

次回のクエスチョンカンファレンスのテーマは「スポーツ」です。新型コロナウイルスは、東京オリンピック・パラリンピックにも大きな影響を与えつつあります。「スポーツで、いま何ができるのか?」カンファレンスを通して新たな視点、新たな問いに出会ってみませんか。

関連リンク

Contact Us お問い合わせ

お気軽にお問合せください
お問い合わせ