ピンチをクリエイティブに乗り越える。明和電機・土佐信道氏にきくサバイバル術!先輩おしえて。

リ/クリエーション

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  • #土佐信道

記事出典:note|Drifters International

文:山本さくら(フリーランス/制作)

▼目次

  1. 明和電機の社史
  2. 明和電機流ピンチ・エンターテイメント術!はじまりはじまり。
  3. 明和電機がインディアンの酋長に!?
    BOOSTコース受講生へ向けたメンタリングタイム!

皆さん、ピンチの時いつもどうやって乗り越えていますか?
全世界を襲っているコロナウイルスの影響で今年はピンチに直面した方々も少なくないんじゃないでしょうか。2020年初頭からじわりじわりとコロナの影が迫り始め、日本においては特に3月-5月は急速的にテレワークが広まり、各種イベントは中止になりましたね。私はイベントの制作業を主な生業としているので、毎日慌ただしく変化する状況に驚きつつなんとか目の前の事に対応する日々でした。私達の業界だけではなく、働き方が変わった、収入が減った、失業した、逆にコロナ特需で儲かった、などなど生活に変化があった方もいると思います。

そんな中、数々のピンチをおもしろおかしく、クリエイティブに乗り越えてきた大先輩・明和電機の土佐さんのお話を伺い、明和電機流のピンチの乗り越え方を、シリーズ講座「リ/クリエーション」の公開講座としてレクチャーいただくこととなりました。後半は、受講生たちへ向けた具体的なメンタリングタイムも実施しましたが、あわせてレポートをお届けします!

▼公開講座のアーカイブはYouTubeにて一般公開中!▼
「明和電機流 ピンチ・エンターテイメント術(土佐信道)」https://youtu.be/rHWn4asIJm4

明和電機の社史

さて、明和電機とは。
「明和電機」という名前や上記の青い作業服を着た人の写真を見ると、電気屋さんかな?と思う方もいると思うのですが、1993年から活動をするアートユニットです。講座も明和電機土佐信道さんによる、自身の歴史を辿った活動紹介から始まります。

1969年に、土佐さんのお父さんが電気部品メーカー、有限会社明和電機を立ち上げました。土佐さんは小さい頃から工場を手伝っていたので、電機部品や経営に近い環境で育ったようです。けれど、土佐さんは小さい頃から芸術家になりたいという夢があり、その夢と生まれ育った環境のエンジニアリングを合体させて、アートユニット明和電機が生まれました。明和電機は、ナンセンスマシンという役に立たない機械を作って、それをライブで演奏したり、美術館やギャラリーで展示をしたり、おもちゃを作ったりして世界を股にかけて活動中です。

明和電機流ピンチ・エンターテイメント術!はじまりはじまり。

今回は明和電機流ピンチ・エンターテイメント術ということで、いくつかの明和電機流ピンチからの脱却方法をご紹介いただきます。

第一のピンチ脱却法:魚を1000匹書く!?
1000匹書き終わった時に、まだ1001匹目がかけるという自信

土佐さんは22歳になった時、人生はじめてのスランプを体験しました。「自分が作りたいものはなんなのか?」「そもそも作るということはどういうことなのか?」という根本的な疑問がわいて手がうごかなくなてしまった。その時に思い出したのが子供の頃によく見た魚の悪夢。そこで、とにかく頭の中にある不条理なイメージを取り出そうと、目をつむって思いついた魚を1000匹ひたすらノートに書いたそうです。

ピンチを抜ける方法は色々あると思うのですが、この時は「数打つ」です。
やってみてすごくよかったのですが、何が良かったかと言うと、1000匹書き終わった時に、まだ1001匹目がかけるという自信があったこと。2000匹も描けるだろう。つまり、自分が生きている限り作り続けることができるんだ、という確信をもつことができました。あと書き終わったあとの紙の厚み。分厚い紙の束と重さが、手で実感できる確信のようで嬉しかった。この実感や確信みたいなことは重要です。(土佐信道)

この1000匹の魚のスケッチがきっかけとなって、明和電機の最初の作品シリーズ「魚器」が誕生しました。

▲1000枚のスケッチを頭に打ち付けて痛がる土佐さん。この厚みや痛みの実感が重要とのこと。
▲当時のスケッチ
▲1000匹のスケッチから生まれた魚器シリーズ

第二のピンチ脱却法:人間力とマンパワー

明和電機は、自前の機械を使ってパフォーマンスを行います。ところが、機械は壊れます。機械が壊れた、でもお客さんがいるという状況のピンチの脱却方法についてご紹介いただきます。

▲需要な場面でのマシン・トラブルに対する明和電機の対処例

①故障発見
②故障の原因を探索
③すぐ治るのか判断(今回は治らないと判断)
④故障楽器の放棄
⑤代用品の検討(今回は不可能と判断)
⑥マンパワーに頼ることに決定。(全力で歌う)

壊れるということは、ピンチなので、乗り切るには知恵や人間力が重要。
一事が万事で明和電機はそういうパフォーマンスをすることが多く、結果お客さんもそれを楽しんでいることが多いようです。

第三のピンチ脱却法:喧嘩しても仕方ない!お祭りをおこしちゃう?

明和電機はアートやステージだけでなくてマスプロダクトもやっています。
2017年、明和電機がマスプロダクトとして作った魚の骨の形のUSBケーブルが、フライングタイガーで全く同じものが販売されるという事件がありました。
もちろん土佐さんは、寝耳に水の出来事だったようでその時のお話もお聞かせいただきました。

通常はこういう時弁護士をたてて訴訟を行うのですが、明和電機はお祭りを起こしました。ツイッターでエゴサーチをしていたら、偽物商品があることを知ってその二時間後には東京中のフライングタイガーにいって買占めをしたんです。全部で250本くらい買い占めて、ひらめきました。
明和電機製の魚コードUSBは2500円で売っていた。それがフライングタイガー製は600円だった。販売原価を考えるとだいたい3分の1くらい。それを考えるとフライングタイガーで買って仕入れて、売ったほうが安い!そこで、フライングタイガーのパッケージに明和電機のシールをはって、販売したらすぐに完売しました。
更にはこの一連の流れを全部ツイートしたんですね。そうしたら、バズって、メディア露出も非常に増えたし、香港でコピーに関する展覧会も開催する運びとなりました。(土佐信道)

これも一種のピンチですが、土佐さんがこの時に行ったのは、ピンチに対して喧嘩をしにいくのではなく、面白がって前向きに頭を切り替えることでした。

第四のピンチ脱却法:ピンチのときこそ「伝えたいことはなんだったのか」立ち返ってみるべし!

そして最近は、コロナの影響で明和電機も大きな展示や、ライブが中止となったようです。4月に東京でライブをする予定だったのですがもちろん開催することができず、配信ライブを計画。

ただ、土佐さんは普通に配信ライブをすることに違和感を感じました。明和電機はモノを見てもらうアーティストなのに、ただ映像配信するだけじゃ伝わらないと思い、なんとかモノを届ける方法はないかと考えたようです。

明和電機のモリアゲBOX

そこで土佐さんが、思いついたのが、配信ライブを見ながら一緒に楽しめるグッズ。これは全部パーツで入っていて、配信までに購入いただき、自分で組み立てて、配信ライブをより楽しんでいただくもの。
なぜできたのかと言うと、元々簡単な量産は自分の工場でできるように、少しずつ体制を整えはじめていて、コロナの直前に調度ある程度自社で量産ができる自身と経験がついたタイミングだったから、とのこと。
ピンチのときこそ、自分たちの伝えたいことを、伝えるチャンスです。

第五のピンチ脱却法:やったもんがちとったもんがち

コロナでもうひとつピンチです。というかコロナで世界がピンチです。
最後にまとめとして、コロナ時代のピンチ脱却法についてお話いただきました。

コロナは何を止めたかというと、人間と人間がリアルに接触することを止めました。ですが、オンラインであるとか、物流のエンタテイメントは大きな影響はありません。むしろ、明和電機はコロナになったほうがECサイトの売上はあがりました。
劇場型エンタテイメントというものも、この100年以内で生まれたもの。テクノロジーによって生まれたものはたくさんあって、オンライン飲み会をしたりとか、アリババ(中国のB to Bを中心にしたEコマース企業)の物流を使ったエンタテイメントを考えたりとか。そういうものを駆使して今までと違うエンタテイメントは作れるし発想次第です。
僕は、コロナのさなかでウイルスについて考えていて、コロナクスというボードゲームをアリババで作ったりしました。ウイルスから学ぶことは非常に大きいです。ウイルスの構造はシンプルなものだから、環境が変わるとそれにあわせて構造が変わっていく。こういうものを相手にするには、人間側も変化しないと無理ですね。状況が変わって変化をしないというのが一番まずい。
明和電機が作るものは機械なのですが生物的な要素が含まれている。明和電機は生物が好き。それはなぜかというと、生物はとどまらず変化していく。今の環境を超えていくことにためらわない生物やウイルスの姿勢が好きなんです。
明和電機の社訓は、「やったもんがち、とったもんがち」です。機械から学ぶこと、生物やウイルスから学ぶこと、両方から学んで明和電機は、成立しているなと思います。(土佐信道)

以上、講座の前半部分である、明和電機がどうピンチを乗り越えてきたか!? でした。

明和電機がインディアンの酋長に!?
BOOSTコース受講生へ向けたメンタリングタイム!

さて後半は、シリーズ講座「リ/クリエーション」BOOSTコースに参加している受講生が、土佐さんに3分間でプレゼンをし、それに対するフィードバックをもらうお時間です。
今回プレゼンをするのは5チーム。BOOSTコースのディレクターである金森香から、「今の受講生は、明和電機にとってまだ制服ができる前みたいな状況。そんな方々に向けて、まだ作品のかたちが固まりきらないうちでも第三者に対して示すべきたたずまい、現時点での肝の据え方、みたいなものが見つかるといいな、と思っているのでご指導いただきたいです!」という土佐さんへのお願いがありました。

それを受けた土佐さんから「そしたら僕インディアンの酋長になりましょうか!?その人のシャーマン的背景を勝手に見ちゃうやつ。あれ結構好きなんです。名前をつけたことによって、輪郭が見えるってやつ。それ、僕いまやります。」こんなやりとりから、受講生のプレゼンと対話を通して、土佐さんがインディアンの酋長となり、受講生のプロジェクトに言葉を授けることになりました。

1) まずは「今日を積む」という平本瑞季さんのプロジェクト

緊急事態宣言が延長された5月7日から解除されるまでの間、インターネット検索で「河原 石」で画像原作をして、出てきた石の画像から、その日に発行された新聞で石を作り、その石を積み上げていていくパフォーマンスをtwitterで行うプロジェクト。終わり方や、アーカイブなど今後の展開に土佐さんから意見をいただきたい、とのことでしたが、インディアンの首長からのお言葉は…!
『石の親鳥であれ!stone mother bird!略してSMB!』
ーすでに石を作って積むという手段は見つけているが、その石を大事に自分の体で抱えている状態。今急いで手放すことはありません。親鳥が卵を守るように、今は石の親鳥であれ。ー
とのお言葉でした。

2)続いて「高校生団体_puzzる」。代表の高校二年生野村明日加君よりプレゼンです。

映像を作ることを通じて色々な立場の人とのコミュニティを作る。団体で映像発信をして、マジョリティ・マイノリティ問わない高校生以下に興味を持ってもらい、興味を持った人同士で垣根を超えて動画に触れられるdivercityなプラットフォームを生むことを目指す、といったプロジェクト。
このプレゼンに対する首長からのお言葉は…!
『パフォーマンス、パイレーツ、パズルのPPP!』
ー野村くんは将来の話をすると、映像じゃなくてコミュニティとか仕組みを作る人になるでしょうね。出発点としてこのプロジェクトがある。野村くんにとって大切なのはチーム作りです。船出をする船長です。まずは仲間集めをする過程をプロジェクトで見せていってもいいかも。海賊の旗をあげて、パフォーマンスをしたほうがいいです。ーとのお言葉。
野村くんからも、「旗をあげてみます!」の心強い返答がありました。

3)3つめは、「販促の今後を考える」プロジェクト。

販促会社に勤務しながらも、個人的な活動として、人が身につける動物の耳(猫耳等)を作成したり、や仮面作家として活動する、SPさん(仮名)。コロナが起きて今後人を集めることができなくなるかもしれない未来の中で「販促」はどう変わっていくのか、どう仕掛けたらいいのか探るプロジェクト。
非常に具体的な相談に、首長はどう答えるのか…!?
『妖怪絵師 in the market!!』
「日本人は妖怪好き。目に見えないはずの妖怪を目に見える形にしていった。例えば、小さい頃お風呂を洗わないと垢舐めが来る、と言われませんでしたか?あれも僕販促だと思うんです。SPさんは妖怪絵師みたいな感じになって人をあっというわせるのがよさそう。見えないものを見つけるための形の与え方を試行錯誤してほしい。」
妖怪が販促とは斜め上の回答。コロナ時代の妖怪はどんな妖怪なのでしょうか…!

4)4つめは、「オンラインツアーパフォーマンス」。パフォーマンスプロジェクトはらぺこ満月主宰の星 茉里さんのプレゼンです。

本来のツアーパフォーマンスは、実際に観客が舞台となる”まち”を歩き場や作品の断片にアクセスすることが多い。集うことが望ましくない現在、観客とまち(場)との距離を見直し、オンライン時代のツアーパフォーマンス作品のあり方を再考することを目的としたプロジェクト。
『風の中の1枚の葉っぱであれ!ワンリーフインザウィンドー!』
ー星さんのプレゼンを聞いて、あなたはこれ!と言いたくない気がしました。たゆたう人だなと。でももし、表現者としてやっていくのであれば、悩んでいるところも見せたほうがいいと思います。見えない風じゃなくてヴィジブルな風であってください。ーとのお言葉でした。

5)いよいよ最後のプレゼンは「coeur」。手話、演奏者、PR、開発と多様なメンバーで構成されたチームです。

音楽を、音以外のものでもアウトプットすることにより、聾者の方でも、そうでない方でも、同じ音楽を同時に楽しむことができる、新しい音楽の演出方法をプロトタイプするプロジェクト。最後の首長のお言葉は…。
『ギャーマン!!』
ーこのチームは突破口が必要だと思います。幅広くいろんな人がいるチームは落とし所を見つけにくいです。風に対してはプロペラが、光に対しては鏡が、そんな感じでこのプロダクトに対してのシャーマン的な何かがいると思うんです。でもシャーマンって感じじゃない。もっとガリッとしてて、なんかギヤとかも入ってて、ギャーマンって感じですね。ギャーマン。とにかく手を動かして、デバイス的な突破口を見つけましょう。ー
とのありがたいお言葉でした。

以上、みなさんプロジェクトを立ち上げたばかりで、まだ自分たちが世界のどこにいるのか、これからどこに向かうのか、悩みながら手探りで少しずつ前に進んでいるような状態の方たちが多いです。
そんな受講生に、明和電機の土佐さんはある種「型」にはめるような言葉を伝えました。土佐さんは、インディアンの首長となった時に、「僕が伝えたことに対して、違和感を覚える人がいたらそれでもいいんです。間違ってても型にはめることはできます。」とも仰っていました。型にはめてみることで、はみだすこともできるし、一度型にはまってみることもできる。

明和電機の土佐さんが与えた言葉から、受講生のみなさんがどんなアウトプットをだすのか非常に楽しみです。
そして、今日の講座を踏まえて、ピンチの脱却方法を自分なりに見つけられるヒントになればいいなと願っています。

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リ/クリエーション 総まとめ座談会は、6/28にオンライン開催されました。
こちらのレポートもお楽しみに。

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