2019年11月に開業予定のSHIBUYA QWS。
本記事では、「未知の問いに出会う」ことを目的とした『クエスチョンカンファレンス|都市の生活はどう変わる?』の様子をご紹介します。
テキスト=髙木香純 写真=鈴木渉 編集=永谷聡基
クエスチョンカンファレンスとは?
多様なバックグラウンドの登壇者が集い、多様な問いを混ぜ合わせながら未来の可能性を探るトークカンファレンス。素朴な疑問から哲学的な考察まで、まだ答えにならない視点や意識が交差することで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。新しい問いが立ち上がる瞬間をお届けします。
開催概要
日時 :2019年10月11日(金)19:00〜21:30
会場 :Plug and Play Shibuya
イベント運営:
【主催】渋谷スクランブルスクエア株式会社
【協力】東京都市大学、株式会社ロフトワーク、Plug and Play Shibuya
「都市の生活は、どう変わる?」
今回のテーマは「都市の生活はどう変わる?」
戦後から現代に至るまで、都市を中心に経済が発展してきた日本。「集積の機能」が求められてきた都市は、現代では人口減少、少子高齢化、環境問題など様々な課題や、就業者の減少、Eコマースの台頭といったニーズの変化に直面し、持続可能な都市としての在り方が問われています。
今回はそんな問いに対して、多様なフィールドで活躍するプレイヤーのトークカンファレンスや、来場者からの問いに対するディスカッションを行いました。
「人口減少やデジタル革命など、社会変化は都市にどのような影響を与える?」
初めに、モデレーターを務める東京都市大学 環境情報学研究科都市生活学専攻の教授、宇都正哲さんが次のように問いかけました。
「皆さんは、今から少し先の未来で日本の人口が1億人を切るということをご存知でしょうか?人口推計では、日本の人口は2040年頃に8800万人になると言われています。人口の4割が一人暮らしになるかもしれない。ミクロ化していく世界の中、日本の都市“東京”は今まで通り機能していくでしょうか?」
「デジタル革命以降、Eコマースが生活の当たり前になり、外に出なくても不自由ない生活が送れるようになってきました。高齢化が進む社会にはありがたい一方で、商品の運送による交通量の増加や大型倉庫の開設は、都市に負荷をかけていると言われています。FANGを筆頭に発達するハイテク産業たちの台頭は、リアルな都市の価値を曖昧にしてしまいました。集積のメリットが感じにくくなった今、都市は新たな付加価値を持つ必要があると思います」
「どうして都市に人は集まるの?」
宇都さんのオープニングトークから、リアルな都市の価値とは何かを問うトークテーマに移っていきます。
東京都市大学都市生活学部 学部長 教授の川口さんは、新しい文化やクリエイティブに関心のある人達が都市に集まる理由を、地形や集客学の観点から紐解きます。
「今回は都市を“渋谷”として考えてみます。地形的な話であれば、谷底に位置し放射状に広がる渋谷のストリートは、様々な魅力ある文化を作り出してきました。開発や整備が進むと、同じビジネスマインドを持った人たちが増え、世界はフラット化すると言われています。ですが渋谷のような街には、今まで築いてきたようなクリエイティブでスパイキーな(少し尖った)文化が必要だと思うんです。そういった魅力的な人々や文化が集まる場所に、人は吸い寄せられるのではないでしょうか?」
続いて渋谷の“スパイキーな文化”を残す「のんべい横丁」の広報担当をされている、株式会社Z 代表取締役社長の御厨浩一郎さんが、スパイキーな街の魅力を教えてくれます。
「のんべい横丁は小さなお店ですが、多世代の人が集まってきます。狭いお店で1人で過ごすシーンはなかなか無くて、大抵誰かが話しかけて自然とコミュニケーションが生まれる。少し前なら煙たがられていたようなおじさんのお説教を、面白がって会話を楽しむ若者も増えてきました。一周して、人はコミュニケーションを求めるようになったんだと感じています」
「街には多少、隈雑なものがあっていいと思うんです。なんでも綺麗に整えてしまわずに、『その先に何があるんだろう?』と探検してみたくなる場所の方が、好奇心が生まれる。より生き生きした街になると思います」
ディープな都市(まち)で生まれるコミュニケーションはどこか懐かしくて温かい。そんな街の“裏”を残すことの重要性を示唆します。
「未来の街はどうなるの?」
続いてのトークテーマは、少し未来の街について考えるもの。ここではあえて“都市”ではなく、親しみを持ちやすい“まち”という呼び方で、人が行き交うことで個性が生まれる街の可能性を探るトークセッションを進めました。
株式会社グランドレベルという建物の1階プロデュース専門の会社を立ち上げ、街と人との関係について探求している田中元子さんは、未来の街と人の理想の姿についてこう話します。
「私は“1000人いる街で全員が引きこもっているよりも、100人の街で全員が外に出ていてほしい”と思っています。自分の目に見える人たちが生き生きしている方が、居心地のいい環境になっていくと思うんです。だから私は1番人の目に触れる1階を、より良いものにしていくための活動を始めました」
計画的に開発されていく“都市”ではなく、人と人が出会い生活をする事でコミュニティや文化が生まれていく“街”を創造することは、利益や便利さだけでなく、生活する人々の居心地の良さも追求する必要があるのだと、明確な課題を示してくれました。
また、環境学が専門の東京都市大学 環境学部教授 総合研究所環境影響評価手法研究センター長の伊坪徳宏さんは、環境面からこれからの街に求められることを次のように説明します。
「現在“50年に1度”と言われるクラスの台風が、世界各地で頻繁に起こるようになりました。これらの元をたどれば、原因はCO2の増加だと言えます。このままの生活を続ければ、20年後には“100年に1度”クラスの災害が毎年起こるようになることが、科学的知見によって明らかになりました。環境問題は待った無しの状態で動き出さなければいけない状況です。そこで重要になってくるのは、都市で生活をしている1人1人の意識ではないでしょうか?」
環境問題というと大気汚染や温暖化など、どうしてもスケールの大きな話に感じてしまいがちですが、都市で生活する私たち1人1人の消費行動や、環境問題を自分ごととして捉える姿勢が、それらの大きな問題解決の第一歩につながるという話に、来場者も登壇者も静かに頷いていました。
問うことから、新たな問いが生まれる
この後のクエスチョントークでは来場者からの問いについて、登壇者がディスカッションを繰り広げていきます。
「計画的に街の裏は作れるのか?」という問いに対して御厨さんは、「作れないとは言い切れないけど、難しいことだと感じています。どうしても作りたてはテーマパークのようになってしまう。ノスタルジーを追い求めるくらいなら、今ある古いものを残すということを大事にするほうが良いのではないでしょうか?」と答えます。
また、「今後起こりうる災害に対しては、誰が主体的に対応していくのか?」という問いに対して伊坪先生は、「今は主に自治体が取り組んでいますが、都市に住む人々との折り合いをどうつけるかが大きな課題になっています。これからは産業界が魅力的な商品を生み出すことで、消費者が自然と環境負荷を減らせる仕組みを創出していくことが求められています。また消費者がそれを認識して自分ごとで考えていくことも必要です」と、これからの環境問題解決のヒントを示します。
最後にクエスチョントークの中で田中さんは、この日のイベントでの気付きを共有してくれました。
「私のやっているような活動も、環境問題も、渋谷の街のあり方もすべて繋がっていて、要はもっと人間らしく生きていこうということだと思います。日本人は戦後復興の中で培われた上昇志向の末に、様々なものを犠牲にしてきたように感じます。もっと人間らしさを取り戻すことで、コミュニティも街のあり方も、環境問題への取り組み方も変わってくると思います」
人間らしく生きるとは
“魅力ある街”のあり方は多様化してきています。環境に配慮した空気のきれいな街、災害に強い街、文化や人が溢れる街、行き交う人が生き生きしている街。そんな魅力ある街、都市を作り未来に残していくために共通して重要なのは、生活するすべての人々が「自分ごと」として問題を捉えることだというお話はとても印象的でした。
上昇志向の中で犠牲にしてきた人間らしさを取り戻すことで、社会は大きなグルーブで動いていける。利益や効率ばかりではなく、人間らしく生きることを追求する中で新たな問いに出会い、それを「自分ごと」として解決するための行動に移していくことが出来る。その一歩がまた、都市に新たなイノベーションを生み出していくのではないでしょうか。
SHIBUYA SCRAMBLE SERIESについて
本イベントは、SHIBUYA QWS開業前にプログラムのエッセンスが体感できる「SHIBUYA SCRAMBLE SERIES」の一環として企画されました。QWSがキーワードにしている[問い]と[スクランブル]を活用し、多様な分野の講義やトークセッション、パフォーマンス、体験型展示など、領域を横断した新しい学びや出会いの場を提供していきます。
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