QWSが提唱する「Questionpreneur(クエスチョンプレナー)」。それは、問いを起点に新たな価値を生み出す人材像であり、答えを急ぐのではなく本質的な構造を問うことで周囲を巻き込み、社会に大きなうねりを起こしていく存在です。
「誰もが行きたい場所へ移動できたら、どんな世界になる?」という巨大な問いを掲げ、医療・福祉の新たな「移動インフラ」構築に挑むmairuプロジェクトの大村慧さんも、まさにその体現者の一人。
今回は、システム開発から現場の自社運行へと至った決断と、その根底にある熱量の源泉を紐解きながら、大村さんと共に「クエスチョンプレナー」の輪郭を探ります。
大村 慧
大村 慧
QWSでの活動プロジェクト名:mairu 〜予約したい福祉タクシー・民間救急がすぐに見つかるシステム〜
株式会社mairu techは、自力での移動が難しい方の移動の可能性を広げ、命と人生の豊かさを支える新しい移動インフラの形を追求しています。患者や家族の手配の負担を解消するシステム「mairu」の提供に加え、専門クルーと専用車両による確実な搬送サービス「mairu mobility」を展開し、誰もが安心して移動できる環境の実現を目指しています。
既存の産業構造の本質に「なぜ?」を突きつける
——本日はよろしくお願いいたします。「クエスチョンプレナー」は、世の中の当たり前に「そもそも」という問いを投げ込み、周囲を巻き込んでムーブメントを起こすような存在として提唱したのですが、まずは、最近大村さんが「問い」について考えたエピソードはありますか?
最近に限らず、「今まで当たり前として扱われている事は、真実当たり前なのだろうか?」という視点を意識的に持つようにしています。日頃からイノベーションに関わる方々から話を聞いたり事例を見る中で、自然と問いが触発される感覚があります。
最近非常に刺激的だったのは、牛のスマート首輪を作るニュージーランドの「Halter」というスタートアップ。彼らは放牧の当たり前であった「柵と見回りによる群の管理」を「スマート首輪による牛の制御」に置き換え、牧場の手間を飛躍的に低減しました。先端技術により一次産業の業務に飛躍を起こし、短期間でユニコーンとなったんです。
——誰もが当たり前だと思っていた構造を疑う、まさに本質的な問いですね。
はい。遥か昔から維持されてきた「放牧とはこういうものである」という当たり前に「何が放牧の課題になっているのか?テクノロジーには何が変えられるか?」という多層的な問いを立て、実際に参入して乗り越えられると証明した。大きな業界に大きな問いを立て、絶大な結果を残していくことが、本当にスタートアップとして見事だと感じます。
そして、我々がやろうとしていることも全く同じ構造なんです。「福祉タクシーという領域に、テクノロジーは何をもたらせるか?」「何がユーザーにとって利便性の壁になっているのか?」という問いに対して、結果で答えを出していくことが自分たちの役割だと思っています。

「ウェブは手段でしかない」自らの思い込みを疑う問い
——QWSに入居した最初は「ウェブサービスはどこまで人の移動を解き放てるか」というアプローチから始まっていたと記憶しています。そこからの数年間で、mairuが向き合う問いはどのように変化してきたのでしょうか?
大村:実は、「誰もが行きたい場所へ移動できたら、どんな世界になる?」という根底にある問いと、「誰も取り残さない移動インフラを作る」というビジョン(答え)自体は、QWSに入居した頃から大きく変わっていません。ただ、2023年の夏に決定的な変化がありました。それは、ウェブサービスはあくまで手段であると断じたこと。医療や介護が必要な方のための配車予約システムを提供するだけでなく、自ら専門車両とクルーを抱えて運行まで手掛ける決断をしました。そこから問いとビジョンの軸がより揺らがなくなりましたね。
——当初こだわっていたシステムという手段を手放し、インフラ構築へ視座を引き上げたきっかけは何だったのですか?
大村:いろんなところで「なぜ自分たちで車両の運行をやらないのか?」と聞かれる機会が増えたことですね。「スタートアップとして事業をスケールさせるつもりなら、システム提供に留まらず、自社で運行まで手掛けて拡大していけばいい。それをやらない理由って何なんですか?」と真正面から問われて、「確かにないな」と。
確かに、自分たちとしてもシステムだけではユーザーにとって魅力的なサービスにならない限界も感じていましたが、無意識のうちに、「自分たちがやるならウェブサービスだ」と勝手に可能性にリミットをつけてしまっていたんです。自分たちの強みをエンジニアリングだけだと誤認してしまっていました。でも世間一般から見た時、エンジニアリング力で自分たちより上の人なんて腐るほどいる。一方で、資金調達を含めたビジネスの仕組みづくりや、現場のオペレーションを回していく力も自分たちの武器であり、そこも含めて勝負すれば良い。「なんで自分たちって、武器をわざわざウェブサービスに絞ってたんだっけ?」と思い至ったんです。
——自らの思い込みを疑う自己否定の問いから、大きなピボットが生まれたのですね。
その通りです。今の自分たちの武器はシステムであり、真っ当なファイナンス能力であり、オペレーションの構築力なんです。別に私自身に介護スキルがあるわけじゃない。でも、専門家を集め、その人たちと一緒に大量の車両を規格化して運行するとともに、それを回すためのシステムと資金を組み合わせることはできるし、それは自分たちにしかできないことかもしれない。あらゆる手を尽く、自ら車両と専門クルーを抱えて搬送事業そのものを運営する真の移動インフラになるという決断を下しました。

問いの源泉は「身内の原体験」ではなく「純度100%の憧れ」
——クエスチョンプレナーの大きな要素である「周囲を巻き込む力」について伺いたいです。かつては、身近な方の原体験を事業のきっかけとして語られていたかと思います。そこから大村さんご自身の思いとして、「誰もが行きたい場所へ移動できたら、どんな世界になる?」という巨大な問いを、本当の意味で自分事化できたのはいつだったのでしょうか?
実は当時から、自分の原動力は何も変わっていなくて。当時は「分かりやすい原体験があった方がいい」という思いから、身近な方の原体験を借りて話していましたが、今も昔も私の原動力は、社会を回すインフラという存在に対する純粋な憧れです。
空港を見るとワクワクするように、数千台の車が自分たちの構築したオペレーションの中で社会を動かしている状態を想像すると、胸が高鳴るんです。本音を言えば、根底には「人の生活を支える大きなインフラを作りたい」と思い続けている、「モビリティ大好き少年」がやっているようなものですね
——なるほど。既存の構造に問いを突きつける裏側には、インフラへの純粋な想いがあったんですね。
大村:はい。そして私は、問いというものはビジョンの裏返しでしかないと思っています。「誰もが行きたい場所へ移動できたら、どんな世界になる?」という問いに対して、我々が出している答えが「誰も取り残さない医療福祉のモビリティインフラになる」というタグラインです。
この壮大なインフラを創り上げるためには、当然多くの仲間を巻き込んでいかなければなりません。結局のところ、スタートアップの人材の吸引力は、「やっていることの意義」と「中にいるメンバーの本気度」の掛け算で決まる割合が非常に大きい。だからこそ、純粋な憧れに基づいた「自分たちはインフラになるんだ」というビジョンをブレずに発信し続けています。
——その圧倒的な熱量があるからこそ周囲を強く巻き込めているのですね。採用の場でも、そのビジョンを軸にされているのですか?
もちろんです。相手が何を軸に次の仕事を探しているのか、面談の中でよく聞かせてもらいます。「最前線で直接ご利用者さんに向き合いたい」という想いでクルーとして活躍いただいたり、逆に「仕組み化に興味がある」という方には将来的にマネジメントをお任せしたいと思ったり。答えのあり方によって、会社に対しての適切な関わり方を一緒に探るようにしています。

創造的待機。プロダクトを磨くため「インフラとは何か」に立ち返る
——日々、目まぐるしいスピードで事業フェーズが変わっていくなかでこそ、QWSがクエスチョンプレナーの条件として提唱する「創造的待機(あえて立ち止まることの強さ)」が問われる場面もあるかと思います。この点についてはいかがでしょうか?
大村:常に動いている現場の視点と、あえて止まって大局を静観する視点を分けて持つことの重要性はすごく感じます。私は組織の中で意図的にその“あえて立ち止まる”ポジションを取ろうとしていて。現場の課題を解決したい気持ちは分かるけれど、「いや、それって営業所が3つに増えたら成立しないよね」というようなビジョンに基づいたメタな視点をずっと社内に投げかけ続けているんです。
——なるほど。では、立ち止まって一歩引いた視点を持つために、チームへ投げかけている具体的な「問い」はありますか?
大村: まさに「インフラとは何か?」という根源的な問いですね。事業が回り始めて拡大しないといけないとなった時の思考スキームとして、ホワイトボードの一番上に「インフラ化たれ」と書いて、「これを構成する要素は何だったっけ?」と今でもよく問い直すんです。
例えば、「ひねっても水が出るか出ないか分からない水道」ってもうインフラじゃないですよね。同じように、時間通りに確実に来るからこそインフラと呼べる。
別の視点では、丁寧に、クオリティを高くするために価格が2倍になってしまい使い難いものになってしまうなら、それはインフラとして成立するのか。そのバランスを探る中で、「どんな搬送手段を組み合わせるか」「患者さんにどんなUXを提供するか」という議論が深まり、モビリティインフラにおける規格化や効率化といった解決策が研ぎ澄まされていくんです。
——素晴らしいですね。「インフラ化」というブレない軸があるからこそ、現場の試行錯誤が迷走せずに、しっかり事業の力として積み上がっているんですね。
最後に、今日ここまでのお話を受けて大村さんの考えるQuestionpreneurはどういう存在だと考えましたか?
Questionpreneurとは、一般に問いだとすら認識されてないところに問いを立てると同時に、その答えがあるのだと自ら証明する存在だと思っています。問う、そして問うだけでなく示す。そのプロセスの先に、誰も想像しなかったような未来の社会像の実現があるのだと思っています。
聞き手:磯辺陽介
執筆:船寄洋之
編集:越本春香
撮影:村上大輔
