食、老後、都市、学び、多様性、家族、公共、スポーツ、つながり、移動をテーマに、多様な視点で未知の問いについて考えてきたクエスチョンカンファレンス。第11回のテーマは、「働く」です。
テレワークや人工知能、給付金制度の導入をきっかけに、「働き方」や「お金」について考えることが多くなりました。社会が急速に変化している今、私たちが意識すべきこととは何でしょうか。今回のクエスチョンカンファレンスでは、働くことの前提から考えていきました。新しい「働く」の可能性を、SHIBUYA QWSコミュニケーターの長谷川がレポートします。
クエスチョンカンファレンスとは?
多様なバックグラウンドの登壇者が集い、多様な問いを混ぜ合わせながら未来の可能性を探るトークカンファレンス。素朴な疑問から哲学的な考察まで、まだ答えにならない視点や意識が交差することで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。新しい問いが立ち上がる瞬間をお届けします。
山口揚平
山口揚平
藤原徹平
藤原徹平
横石崇
横石崇
「時間の濃度」が人生の豊かさをつくる
働くことを考えたとき、「お金」と「時間」は切り離せない概念だと思います。思想家の山口揚平さんは、働く理由の変化についてこのように話します。
「お金も時間も共通概念であり、実体がない。実際GDPが成長し続けて、昔よりも全体的に幸せになったとは思えていないのではないでしょうか。お金や時間の総量を増やし続けても『豊かな感覚』が増えるとは限らないんです。豊かな人生は時間の濃度だということをみんな分かっている。時間の濃度をあげるために、一体何を仕事にするのか、一体どのくらいの時間をかけてお金を稼ぐのか、そして他の時間の濃度をどれだけ上げられるかを考えていると思います。つまり、指標が『貨幣』から『自分にとっての人生の時間の濃度』にシフトしているということです。」
自分だけの意識の突破口「ジーニアスホール」
時間を豊かにするためには、どのように仕事に取り組むのが良いでしょうか。山口さんは続けて、一人ひとりがもっている天才性を使って仕事をすることを提案します。
「仕事や働くことは、社会や他者への貢献作業で、ベクトルが外に向いています。人は意識が自分に吸着しやすいので、ベクトルを外に向けるというのは、やや大変な作業です。ただ、自由に意識が動く突破口『ジーニアスホール』をみんな持っているんです。例えば、機敏な表情を読み取って相手の考えていることが分かる、概念処理が得意など。天才性と職業はリンクさせたいものの、あらゆる職業は総合格闘技であるから難しい。そこで、意識の使い方として、意識が外に向きやすい自分のジーニアスホールから仕事をするのがいいのではないかと思っています。」
一流を育てるアウトプットの連続
建築家の藤原徹平さんは、自分にしかできない仕事について語ります。
「僕は、一つひとつのプロジェクトに対して、何か場のような考えを持つことが一番重要なことだと思います。場がうまく育つと、プロジェクトを通じた価値創造の経験が自分の中にうまく蓄積していく。それが『それぞれのプロフェッショナル』を作っていくと思うんです。」
さらに、モデレーターで編集者の矢代さんを例に、それぞれがつくる「場」について説明します。
「矢代さんを、編集者という肩書ではなく『矢代さん』からとらえてみる。編集者だったら矢代さんのように働けるということはなくて、矢代さんのプロジェクト全体が場のような存在になることで、『矢代さんとしてのプロフェッショナル』がつくられていくんだと思います。誰かの話を自分の感覚で面白いと判断すること、それを編集者として最適な外向きのアウトプットにつなげることで、場になっていく。そうした場によって経験が蓄積する。それが『自分にしかできない仕事』をつくっていくんだと思います。」
誰かと競うのではなく自分自身を誠実に磨いていくことが、人生の濃度をあげるのだと感じます。登壇者の方々のお話からは、ご自身の仕事や活動への誇りが伝わってきます。
職場も給料も関係なく「人」として会う
時間の濃度を上げることは、自分にとって価値のある時間を創り出すということではないでしょうか。藤原さんは、ご自身の経験をもとに、活動の豊かさについて話します。
「僕の所属しているドリフターズインターナショナルは、職場も給料もない一種の『活動』なんです。『活動』は、時間の質をフレッシュにする。職場とか給料がなくても続けられる『活動』では、わざわざ『待ち合わせをして会う』ことが沢山生まれてくる。目標がお金ではないということは尊いことだと思っています。」
誰もが自分好みに場づくりできる未来
通信技術の発展で、移動せずとも出来ることが増え、「リアル」が当たり前ではなくなってきています。数々のイベントを開催してきた横石崇さんは、今抱えている課題を挙げます。
「“働き方のフジロックフェスティバル”を目指した東京ワークデザインウィークのプログラムを、全てオンラインにしたほうがいいのではと考えています。でも、本当にオンラインだけで新しい働き方に出会えたり、意識が変わったりするのかということに確信が持てない自分がいる。コロナ以前の場の設計の延長でいいのかモヤモヤしてるんです。この状況で、出会いの価値を再創造するような打ち手って何かあったりするのでしょうか。」
これに対して、藤原さんは見解を示します。
「打ち手としては、『自分のいる場所をいかに豊かに改造していくか』しかないと思っています。近代が作った住居がいかに貧しいかを痛烈に感じています。近代以前の住居には、家族以外の人がいたり、軒先が農作業場所になっていたり、家にいながら社会に出会う機会があった。でも、近代の住居にはこういった社会が家にないんです。壁で分けてきたことのしっぺ返しが来ているのかなと思っています。だから今、根本的に自分自身の場を変えていく、アーキテクチャーを変えていくという意識を、建築家というよりも全ての人が持ち始める時なんだと思う。」
「偶然」の出会いを創り出すには?
登壇者の方々は、「偶然出会う」ことが減ってきていることを懸念されていました。これまで大学や街角で起こっていた「貨幣的でない価値の場」に意識的に関わるベクトルと、自分を「時間の質を変えていく活動」に紐づける勇気をもつことが大切だと感じます。
少し先の未来で、場所やお金という縛りから徐々に解放されるとすると、今が「人生の時間を豊かにする」ことを考えるタイミングなのかもしれません。「偶然」がつくりあげてきたことを、これからは自分の手で創造する。自分がこの世界に作り出せる価値を、一人ひとりが考える。一人ひとりが自分の人生を生きる、個性の解像度が高い世界が始まりそうです。
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