記事出典:note|Drifters International
文:安藤僚子
発信する地域の実践者たち~拠点作り&ZINEづくり~
ゲスト:Hand Saw Press (東京)・汽水空港(鳥取) +バーバリアンブックス(福島)
2020年5月29日(金)19:00~21:00
こんにちは、Hand Saw Pressの安藤僚子です。東京の西小山でリソグラフ&OPEN D.I.Y.スタジオをやっています。本講座は、SHIBUYA QWSの緊急オンライン講座RE/CREATION BOOSTコース「コロナ時代の新コミュニケーション術をみんなで考えよう」の講座です。今回は「実践力」と「発信力」について考え伝る回ということでお題をいただいたので、自分たちの他に、実際に拠点を作り活動を続けている仲間を迎えて話を聞くことにしました。
Zoomでのオンライン講座は、参加者の顔だけが並ぶ画面になりがちですが、東京、鳥取、福島という3つの拠点を繋ぎ、それぞれの場の様子が感じらる配信を意識して講座はスタートです!
▼目次
- 印刷機・紙・作品に囲まれたスタジオ、東京『Hand Saw Press』から
- 夕陽が沈む池が広がる小さな小屋、鳥取『汽水空港』から
- 広い土間と小上がりの座敷に本が並ぶ、福島『バーバリアンブックス』から
- インディペンダントでありながら、パブリックな場を作る
- おすすめのzineの紹介
印刷機・紙・作品に囲まれたスタジオ、東京『Hand Saw Press』から
まずは私たち、リソグラフ&Open D.I.Y.スタジオ『Hand Saw Press』。コロナ自粛期間中に自分たちで改装工事を続けていた新しい拠点から配信です。6月頭に完成したばかりのスタジオなので、お披露目も兼ねています。
Hand Saw Pressは、出自の違う近所の仲間3人で運営しているのが特徴で、ジャマイカレストラン「アマラブ」として自宅を住み開きながら建築の活動を続ける菅野信介、音楽ライター・編集+渋谷のビーガンレストラン「なぎ食堂」のオーナーである小田晶房、空間デザイナーとして「デザインムジカ」を経営しながらいろいろな人と一緒にものづくり活動を続ける安藤僚子というメンバーで運営しています。3人とも、スタジオに対する考えか方や、やりたい事がバラバラで、『Hand Saw Press』としてひとつの思想や目標みたいなものは掲げられないながらも、それはあたりまえとして、お互いを尊重し、対等な立場で続けて来ました。
得意な事がそれぞれ違うということは、持っているスキルや道具、人脈が違います。一緒にやることで、きることの幅と可能性が広がっていくところが面白いところ。ただ、バラバラながらも、場所と道具を町に開放して、公民館のような場所にしたいという考えは当初から一致していました。国内外の多くのリソグラフ(参考:「リソグラフってなに?」)を愛するアーティスト達から、地元に住むおじいさんや子供達まで、様々な人と出会い共創するためのプラットホームのような場でありたいと思いながら活動を続けています。
夕陽が沈む池が広がる小さな小屋、鳥取『汽水空港』から
次は、鳥取にある本屋『汽水空港』のモリテツヤさんが、改装中のお店から配信です。モリさんがPCを手に店内から外へ出ると、目の前に広がる東郷池に、ちょうど夕陽が落ちる様子が画面に広がります。
東京はもうすっかり日が沈んでいたので、まだ明るい鳥取の空に距離の遠さを実感します。「汽水空港」という素敵な名前の由来を質問すると、この東郷池が海水と淡水が混ざる水質「汽水」であり、同じように境界が曖昧で、どこの国にも属していない「空港」という場所が好きだというモリさん。本を「旅先」と例えると、本はいろんな場所に飛び立たせてくれる。
もともとは千葉県に住んでいたモリさんは、20歳頃から本屋をやりたいと考えていました。しかし、本屋は儲からない。ならば、現金への依存を減らせば良い。畑を学び、家賃が安い鳥取に2011年に移住。廃園の幼稚園から跳び箱をもらい、キャスターをつけて本棚に改造した「跳び箱本屋」からスタートし、そこで出会った左官屋さんからDIYのスキルを学び、町を歩いて見つけた小さな倉庫を自分で改装して、今のお店を開店させました。
店は本を売るだけでなく、コミュニティースペースとして場所を開放しています。ライブパフォーマンスや洋服の展示会を開催したり、近所の中国語や英語ができる人を先生に呼んで、学ぶのにお金がかからない学校「汽水学港」を作ったり、大学生の発表会に場所を貸し出したりと、さまざまな活動を紹介してくれました。
最近は『汽水空港ターミナル2』と名付けた畑作りに精を出しているようで、「公共」「分け合うこと」をテーマに、畑仲間を募集し、誰でも野菜をもぎ取っていけるような「食べられる公園」を作ることに励んでいるそうです。
広い土間と小上がりの座敷に本が並ぶ、福島『バーバリアンブックス』から
福島の西会津町にある拠点からの配信はバーバリアンブックスの楢崎萌々恵さん。彼女はパートナーのウィリアム・シャムさんと猫2匹と一緒に、築70年の呉服屋だった古民家でコミュニティースペース「バーバリアンブックス」を運営しています。萌々恵さんが話す番になると、猫がパソコンのそばに来て鳴き出し、一緒に参加してくれているようでした。
萌々恵さんとウィルさんは、NY州立ファッション工科大学のクラスメイト。卒業後、NYのブルックリンで活動していましたが、家賃が高く自由が利かないことを感じ、NYを離れることにしました。ヨーロッパで滞在アーティストとして過ごしてから、2016年に日本に帰国することに。地域おこし協力隊のアートの分野で人を募集していた西会津町を見つけ、まずは西会津国際芸術村でレジデンスアーティストとして滞在します。すっかりこの土地が好きになった二人は、そのまま移住することを決めました。西会津には多くの空き家があり、生活と仕事、活動の一つであるzine作りのためのプリントショップ、アーティストが滞在できるレジデンススペース、地域の人が集まるオープンスペース、自分達がやりたかったことが実現できる、広い拠点を持つことが、西会津では可能でした。
2人は「ITWST」というデザインユニットとしてグラフィックデザインの仕事をしながら、バーバリアンブックスを運営しています。プリントがメインのzine作りワークショップを開催したり、大学生が毎年合宿に来たり、海外からアーティストやインターンシップの学生が訪れワークショップを開催したりもしますが、何より、子供達が学校帰りに毎日来て宿題をするような場になっているという話が印象的でした。
バーバリアンブックスの名前の由来は、江戸時代に洋学や蛮書(海外の本)の研究と教育の場所、「蛮書調所」の英語訳「Institute for the Study of Barbarian Books」から。Barbarian(野蛮、教養がない、未開、未知)という意味で、「正常を疑え、正常と思われていない(野蛮な)ものの中に新しい発見があるかもしれない」という自分達の気持ちと一致していたと話してくれました。
インディペンダントでありながら、パブリックな場を作る
3拠点は、東京、鳥取、福島と、所在する場所の環境はだいぶ違いながらも、「公民館のような誰にでも開かれた場所でありたい」という思いが共通点としてあります。大きな経済や社会のシステムに巻き込まれず、自分達の力で持続可能な拠点を作り、できるかぎり町に開くこと。インディペンダントでありながらパブリックな場を作ること。わたしたちも、彼らも、そんな活動の実践者達なのだろうと実感しました。
おすすめのzineの紹介
◉Hand Saw Press 菅野信介
「Whole Crisis Catalogをつくる。」(汽水空港)
汽水空港が2019年に発行した、みんなのCrisis (困りごと)を共有できるカタログを作りたいと、60年代に発刊されたホールアースカタログからインスピレーションを受けて作ったzine。Hand Saw Pressでも、ワークショップをする時に参考にしている活動のzine。
モリさんがこのzineを作ろうと思ったのは、ちょうど2019年の参議院選挙の時。人口の少ない鳥取の生活では、政権への反論やデモなど、政治に対して石を投げる場がなく、近所の仲良い老人達と話すと、みんな当たり前のように自民党に投票する。なんとか世代や立場の違う人たちとも政治的な話ができないだろうか?と思ったことがきっかけでした。みんなの困っていることを解決するために税金があるのだから、まずは、みんなの困りごとを話す場を作り、あらゆる世代の困りごとを把握し共有し、政治に投げかけてはどうだろう?中には自分たちで解決できる悩みごともあるじゃないか。というように、汽水空港で始めた市民活動の記録zineです。
◉Hand Saw Press 安藤僚子のおすすめ
『パレスチナ・ジャーナル』『香港日記』(Barbarian Books)
バーバリアンブックスが2019年に発行したzine。ポリティカルな問題をリサーチしてzineを作っているバーバリアンブックス。香港とパレスチナに滞在して感じた問題を伝えるドキュメントzine。「私たちにとってzineは、自分達の考えを発信して、共有したり考えたり繋がることができる有効的なメディアと考えている。zineの内容は自分たちの気になることや伝えたいことを題材にしている。」と萌々恵さんが話してくれました。
香港に彼らの友人がいることから、反送中のムーブメントがある今こそ、香港に行くのが大切なのでないかなと思い、滞在の経験をドキュメントしてzineとして発信しています。また、ウィルさんが兼ねてから興味を持っていたパレスチナの問題について、実際訪れ、スケートボードのコミュニティーとオーガニックファームを作るボランティアをしながらパレスチナに滞在した記録をまとめたzineです。
◉汽水空港 モリテツヤのおすすめ
「unkn0wn 01」NEO POGOTOWN
沖縄のコザという町で活動するヤマザキOKコンピュータが率いるNEO POGOTOWNが発行する音源付zine。路上に勝手に野菜の種を植えてフリー農園をゲリラ的に作っている「路上野菜解放戦線」ということを紹介していて、面白いのでぜひ読んでみて欲しいzineです。
◉バーバリアンブックス 楢崎萌々恵のおすすめ
地元のおじいさんが作るzineと、バーバリアンブックスに集まる近所の子供達の作ったzine
山菜など山の事に詳しい93歳のおじいちゃんが、自分の家のコピー機を使い、手書きの原稿を切り貼りして作っている、ハンドメイドな本が大好きだという萌々恵さん。誰でも本は作って良いものだし、子供でも老人でも何歳でも作れる。内容も自由でなんでも良い。本を作るということの初心に戻らせてくれるzine。子供たちのzineは、バーバリアンブックスで販売もしているそうです。
この講座のアーカイブはこちらから!
▶︎https://www.youtube.com/watch?v=Uqq0WgtzOok
ほかの公開講座レポートはこちら!
「匿名の観客から顔の見える参加者へ ―ふたつの言葉が可視化するオンラインの熱気―臼井隆志のオンライン講座レポート!」はこちら
「ピンチをクリエイティブに乗り越える。明和電機・土佐信道氏にきくサバイバル術!先輩おしえて。」はこちら
「おもしろいの軸をもつ:リ/クリエーションCコースでの講座を終えて」矢代真也さん、平山潤さんの講座レポートはこちら
「ソーシャルとわたし―私たちはどこへ接続するのか―」水野大二郎さんの講座レポートはこちら