匿名の観客から顔の見える参加者へ ―ふたつの言葉が可視化するオンラインの熱気―臼井隆志のオンライン講座レポート!

リ/クリエーション

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▼目次

  1. 初のオンライン講座に挑戦!
    はじまりから違うのがオンライン。体験型の講座ってどんなもの?
  2. 匿名の観客から顔の見える参加者へ。集団の熱気を可視化するチェックインはGoogleスライドで。
  3. 対話は誰とでもできる。共振のきっかけは視覚にあり!?
    「MURAL」やグラレコを使ったビジュアルコミュニケーション術
  4. 役割の明確化、情報の可視化の先に生まれるもの。「MURAL」+ブレイクアウトセッション、で試してみると?
  5. 実践したから分かること。ふたつの言葉を使っていこう

初のオンライン講座に挑戦!
はじまりから違うのがオンライン。体験型の講座ってどんなもの?

打ち合わせや議論をしながら、あなたはどんなメモをつけますか?手帖にボールペンで書く人、パソコンでメモを打ち込む人、配られた資料に書き足す人。人それぞれにやり方はありますが、それを人と共有しようとするとどうなるでしょう。言葉を交わすことは共同作業の第一歩ですが、そこにどんな材料を加えるかで広がり方は大きく変わっていきます。コロナ禍で対面できなくなり、共有プロセスが大きく変わった今だからこそ考えたい、共同作業のやり方とはどんなものなのでしょうか?

 今回は、シリーズ講座「リ/クリエーション」が大切にしてきた集団制作・思考を続けるために、参加者みんなで試しながら考えたドリフ初のオンライン講座の様子を、コミュニティマネージャーの山川陸がレポートします!

 まずは日常行為になりつつあるWeb会議サービス「Zoom」へのログインから、本講座もスタート。ワークショップデザイナーの臼井隆志さんとの事前確認を終えた私たち運営チームの待つ「部屋」に、時間になり続々オーディエンスの皆さんが集まってきました。peatixの事前予約では、
1) 実際のワークに参加できるZoomへの入室 
2)観覧のみのYoutubeLIVE
のいずれかを選べるようにしており、Zoomの中で見えている以外にも、多くの人がYoutubeLIVEにも集まっています。オーディエンスが集まってから登壇者が入室するオフラインのイベントとは逆に、私たちが先にいてオーディエンスが後から入室する順序には、普段のイベントとは違った緊張感が…。数多くのファシリテーションを経験してきた臼井さんも緊張するほどなので、オンラインがこれまでの当たり前から一つ一つ異なっていることがよく分かります。

さていよいよプレ講座のスタート。
・受講生のチェックイン(Googleスライド)
・前半 臼井隆志さんのレクチャー
・後半 ホワイトボードアプリ「MURAL」を用いた対話実験
という流れです。
Zoom、YoutubeLIVEともにチャット上でコメントやリアクションを随時拾い上げることになりました。Zoomのチャットをドキュメントに集約する人、Zoomの画面や音声をコントロールする人、YoutubeLIVEの様子を伝える&チャットを返す人等、様々なルートから講座に集まったオーディエンスへの対応を運営メンバーで分担していきます。(後日ここの設計は更にグレードアップしていきます)

匿名の観客から顔の見える参加者へ。集団の熱気を可視化するチェックインはGoogleスライドで。

 臼井さんのレクチャーはマインドセットの確認から始まりました。今回はクリエーター編ということで「誰かから依頼のあった仕事というより、個人の衝動に突き動かされてやるようなプロジェクト」に取り組む人たちに向けた内容に特化するという主旨。直接対面できないテレワークの環境下でも、個人の関心や情熱を基点に、他者と共振しながらプロジェクトを推進する方法を考えます。

 最初はオフラインのワークショップでも必ず行われるアイスブレイクから。あげられたお題にGoogleスライド上で一斉に回答を書き込んでいく。今回のお題は写真のとおり。

こんな感じで解答がリアルタイムで埋まっていきます。おぉぉ。

スライドを一覧表示にすると、さまざまな関心が書き込まれていく様子が一望できます。オンラインツールの特徴はこうした情報の一覧性にある、と臼井さん談。順繰りに情報を見せるためのスライドツールが、同時多発の様子を観測するメディアになることに早速驚いた人も多かったのではないでしょうか。私も数名でGoogleドキュメントへ同時記入することでアイスブレイクを行ったことはありましたが、YoutubeLIVEからの書き込みも受け付けたことで数十名が一斉に書き込む光景は見たことがなく、文字が増えていくだけで参加者の熱気が感じらました。

 質問への回答を待つ間、臼井さんと司会の金森(ドリフターズ・インターナショナル理事)のフリートークが行われます。対面よりもディスカッションが難しいという金森の意見に対して、会話への割り込みの難しさや自然とかしこまった雰囲気になってしまうテレカンの特徴などを臼井さんが解説。記入されていく回答を眺めてみると、オンライン上における「余白」や「遊び」をどう作るかの関心が多いことに気づかされます。チャット欄ではスライドへの記入方法を質問した参加者に対して、運営よりも先に他の参加者が回答したり、参加者同士のサポートやコメントが投稿されはじめ、音声以外のコミュニケーションチャンネルがある面白さが早速見えてきました。
 スライドで情報が全て見えることで、トークの中では取り上げられなかった意見も一望することができて、非常にインプットの多いアイスブレイクとなりました。

対話は誰とでもできる。共振のきっかけは視覚にあり!?
「MURAL」やグラレコを使ったビジュアルコミュニケーション術

 臼井さんのレクチャーでは、まずは「観客」への関心のお話から。他の人の個人的な関心への興味がいかに共有され共振を生むのか。オン/オフラインに関わらず通じるこの関心を軸にこれまでのプロジェクトの紹介がスタート。どんな町にもある児童館にアーティストインレジデンスのような仕組みでアーティストと地域の子どもの関わりを生む「アーティストイン児童館」や赤ちゃんと大人のインタラクションを考える「意外と知らない赤ちゃんのきもち」、演劇鑑賞後に同じ経験をした初対面の人同士の対話の場づくりの実践「プラータナー あなたのポストトーク」など。受動的に作品を受け止めるだけの観客から、受け取ったものを他者と共有し違いを確かめていく対話型鑑賞へ向けて、さまざまな取り組みを続けてきたことが分かります。「あなたのポストトーク」で用いられたグラフィックレコーディングは、当講座のABコースキックオフでも受講生が学んだ手法ですが、バックグラウンドがさまざまに異なる受講生たちもチーム内での議論や対話にこのグラフィックレコーディングのようなビジュアルランゲージを積極的に利用しています。
 臼井さんは、対面しての対話や共有が難しい現在は、ホワイトボードアプリの「MURAL」を利用して、オンライン公開されている美術展を通した鑑賞と対話の実験を行っているそうです。建築設計を行う私にとってもさまざまな人との対話は重要な関心です。観客を能動的な対話へ導くファシリテーションは、色々な対話に応用できる手法で刺激的でした。

 レクチャーは後半に入り、コラボレーションの話へ。今回のプレ講座は、いわゆるビジネスパーソンに向けたオンラインツール活用やチームワークを喚起するためのものではありません。それぞれに強い関心を持つ個人をベースに、チームとして触発しあうにはどうしたらよいのでしょうか。臼井さんはまずは互いの持つものを共有、そこから通底するものを探すことがそこでは重要だと言います。違いを前提として考え対話することが重要ですが、オンライン上ではなかなか議論を深めることが難しいのも事実です。耳と口だけでなく視覚に訴えるとオンラインコミュニケーションは活性化し、情報の可視化が議論を深めるという重要なヒントが最後に提示されました
 このレクチャー自体も、臼井さんの関心を伝え、また誰かの共振を誘発するもの。以上で前半レクチャーは終了しました。

役割の明確化、情報の可視化の先に生まれるもの。「MURAL」+ブレイクアウトセッション、で試してみると?

 ここからは「MURAL」を用いた共同作業の実験です。「MURAL」は、広大な白い平面上に文字や図形を書いたり、付箋を貼れるホワイトボードアプリの一種です。視覚に訴えるツールとして、Googleスライドに続いて利用します。さらに大部屋に集まった状態のZoomは、対話をしやすい3人一組になるよう小部屋に移ってもらいます。これは「ブレイクアウトセッション」と呼ばれる機能で、任意の人数に参加者を振り分けることができます。各部屋の対話を同時に聞くことはできないので、「MURAL」にリアルタイムで書き起こすことで、あとから共有可能な状態にします。3人一組の対話は、3ピースダイアログと呼ばれ、ワークショップでは定番のコミュニケーション方法のひとつです。今回は「語る人・聞く人・書く人」の三者に分かれてもらい、順番に役割を変えながら、会話を行います。(以下の図参照)

 役割を明確にしつつ記録を可視化して議論することで、グループ内の理解や議論が短時間で進みます。
 あるルームでは「最近の関心事は?」という質問から、教員の方がオンライン授業の導入へのハードルと、従来の授業との違いを語っていました。編集会議では、オンラインになり各自のリアクションが見えやすくなるという意見もあり、オフラインの授業がインタラクティブではなかったのかもしれない、と見直しが起きていました。各ルームの様子を比較していくと、インタビューを聞きながらどんどん付箋が増えていくルームのある一方、なかなか書き込めず苦戦するルームもありました。これはツールへの慣れに加えて、会話を聞きながら速記的にタイピングすることへの慣れも関係していそうです。オンラインでは、これまでとは異なった手の動かし方が必要になってくるのかもしれません。

 「MURAL」で各ルームがワークをする一方、YoutubeLIVEでは臼井さん、ドリフの金森、QWSマネージャーの永谷さんの3名がデモンストレーションを兼ねて3ピースダイアログを行う様子を配信。金森が最近の実体験に基づき、複数人全員の顔を見ることが目的のミーティングはなくなり、個々の検討時間を意識的に確保したり、切り出しのミーティングを細かく設定する必要が出てくるのではないかなど、ミーティングの位置づけの変化について話しました。視聴者も参加者も、自分のいるルームでの会話しか聞くことのできない一方、各所で充実した議論が起きていることが「MURAL」の画面から感じられました。

実践したから分かること。ふたつの言葉を使っていこう

 今回の講座は、チャットやホワイトボードアプリなどの視覚に訴えるツールを使いながら行いましたが、同時にいくつものツールを扱うことで広がりがある一方、コツをおさえる必要があることも分かりました。途中、誤操作でブレイクアウトセッションが予定より早く解体してしまうハプニングが発生しましたが(汗)、オフラインイベントよりも一人がこなせるタスクが限られるため、役割や分担を明確にして進行することの重要性を、はからずも実感することになりました。みなさんもぜひお気をつけください。

 まとめのトークでは、これまでなんとなく回せていた会議もオンラインでは分担や事前設計を徹底した「会議を運営する」という考え方になるのでは?と、語られる一幕もあり。徹底した段取りを上で行われる「書き言葉」と「話し言葉」の並行するコミュニケーションが、共同作業を広げてくれるのかもしれません。この講座自体がオンライン共同作業の実践にもなったことを確かめて、あっというまの2時間はエンディングを迎えました。

 運営チームとしても、以降の公開講座の運営や受講生とのコミュニケーションに大きく影響する講座となり、必要な役割分担の徹底だけでなく、レクチャーに並行するチャットファシリテーションも、我々コミュニティマネージャーを中心に日々実践しています。またコース始動後に、ホームルームラジオと題して、お昼にZoomで短い自己紹介を行う活動を受講生と続けています。ホストを務めるのは発信を考える上で大切な経験になります。活動のひとつひとつが「オンライン時代の情報発信を考える」実験と実践になります。

 SHIBUYA QWSというフィールドを遊び倒すように行われてきたシリーズ講座「リ/クリエーション」は、いよいよ終盤を迎えますが、展開中のBOOSTコースを通じてオンライン上にもクリエイションを触発する遊びや余白を見つけるのかもしれません。今後のレポートもどうぞお楽しみに。

『リ/クリエーション』BOOSTコースは舞台をオンラインに移して、開講中!次回公開講座の詳細はこちら

文:山川陸(建築家・山川陸設計主宰)

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