SHIBUYA QWSにて日々活動するコミュニティマネージャー/コミュニケーターたちに、コミュニティ運営で心がけていることを聞いた。
執筆:石川みく 編集:天野俊吉 撮影:藤村全輝 企画:かくしごと
(こちらの記事は2024/11/1に発刊された、QWS BOOK 2019-2024の転載となります)
「そもそも、仕組みがわかりにくいんです(笑)」
── 今日は、SHIBUYA QWS(以下「QWS」)のコミュニティ運営について、普段現場を見ている皆さんに “QWSならでは ”のストロングポイントを聞かせていただければと。
加藤:QWSは “問い ”に対しての興味がとても強い施設です。こういう施設はコンセプトがなかなか浸透しないことも多いですが、QWSの場合はコミュニケーターが “媒介者 ”として価値観を共有することで、問いを起点とした共創施設として成り立っています。
── コンセプトを場に浸透させるために、みなさんが意識していることを教えてください。
髙木:QWSはいわゆるコワーキングスペースとは趣旨が異なるんですが、見学に来られる方のなかには、そういう一般的な作業場所を探している方もいらっしゃるんです。そういう方には「QWSはめちゃくちゃ話しかけられますけど、大丈夫ですか?」とお聞きしますし、場合によっては「QWSじゃないほうがいいかもしれません」とはっきりお伝えすることもあります。
加藤:「渋谷 コワーキングスペース」で検索しても、QWSは出てこないんですよ。「駅近で景色良好なコワーキングスペースがオープン!」みたいな打ち出しをすればもっと集客できると思うんですけど、あえてやっていません。
そもそもQWS って、仕組みがすごく分かりにくいんですよね(笑)。「結局なんの施設なの?」と言われることもあります。ただ、分かりにくいものを分かりやすく伝えても、本当の価値は伝わらないと思っていて。分かりにくいまま、その複雑さや難しさを許容するのがQWSという場所なんですよね。
コミュニケーターにも、「QWSは常に分かりにくいままでいいよ」とよく伝えています。分からないないものに好奇心を持ってくれた方だけがQWSに “呼ばれて ”くるからこそ、場が成り立つと思うので。
── 企業や大学、自治体など、多様なバックグラウンドを持つ方が集まるQWSですが、立場が異なる方々のコミュニケーションを促進するために工夫していることはありますか?
池原:「コミュニケーターが全部やってあげる」って感覚は私にはなくて、どちらかというと会員さんと一緒にQWSを作っていく感覚です。たとえば、自分で使ったものは自分で片付けてもらう。「(ホワイトボードを消すなら)イレイサーよりダスターのほうがきれいになりますよ!」と言って、やってもらいます(笑)。
あと、はじめてQWSに来た方がいたら、近くにいる話しかけやすい会員さんに協力してもらって、会員さんからQWSの活用法を説明してもらうこともあります。“スタッフとお客さま ”ではなく、対等な関係でいたいんです。
髙木:会員さんのお困りごとを解決したり、会員さん同士をつなげたりするためには、コミュニケーターが身近な存在でいることが不可欠なんですよね。だからこそ、社会的地位がある方だとしても “高尚な人扱い ”しすぎないようにしています。
著名な方がいらっしゃることも多いですが、「あの有名な人だ!」と身構えるんじゃなくて「絶対仲良くなってやろう!」と思うようにしていて。「お昼何食べました?」とか「お洋服素敵ですね」とか気軽に話しかけていると、そのうち相手も心を開いてくれて、向こうから「髪切ったね!」って声をかけてもらえたりするんですよ。
どんな肩書きの方であっても、何歳の方であっても、QWSにいるときはできるだけフラットなコミュニケーションを心がけています。
加藤:QWSでは、“問いの前ではみな平等”です。その人が何者なのかよりも、何を問うているかのほうが大事。コミュニティって、現実世界と重力が違うんですよね。ここでなら何者かである必要はないし、何を聞いても、何を考えてもいい。会員のみなさんも“軽く ”なれるのが、QWSのいいところかなと思います。
今日の一手が、いつか大きなムーブメントになる
── QWSという場を成り立たせるにあたり、コミュニケーターの存在はとても大きいと感じます。改めて、コミュニケーターの役割を教えていただけますか?
加藤:簡単に言えば、問いの流通を担う役割ですね。1人の問いがQWSのなかでどれだけ循環したかどうかで、問いの価値が変わる。その橋渡し役がコミュニケーターです。
加えて、施設の運営やルール決めなど、インフラストラクチャーとしての役割もあります。コミュニケーションの質を上げていく一方で、泥にまみれながらQWSという土壌を耕していく。そのバランスをうまく取ってほしいなと思います。
── 池原さんと髙木さんは、コミュニケーターというお仕事を通じてどんなことを学びましたか?
池原:会員さんと接していると、私たちもエネルギーをもらえています。就活のとき、ある企業の人に「大人と学生の違いってなんですか?」と聞いてみたら、「大人は嫌なことも我慢しなきゃいけないんだよ」と言われてしまって。
社会に出るとそんな言葉があがることもあるなか、QWSには解決したい課題、叶えたい未来に向かって前向きに頑張っている人たちがいる。そんな方々と日々接していると、私もエネルギーをもらえるんです。何かを成し遂げようとするときには、絶対解なんてないと気づけたことが、私にとっては大きな収穫でした。
より良い結果を目指すために、QWSには毎日自分の問いと向き合いながら必死に頑張っている人たちがいる。「仕事って超楽しいじゃん!」と思えたし、そう思えるようになったのはQWSのおかげです。
髙木:私はオープン当初からQWSにいるので、最初は何をすればいいのかもわからず……。「同級生が会社で頑張ってるのに、私はここでゴミ袋をまとめてていいんだろうか?」と悩んだ時期もありました。
でもある日、「QWSステージ」のゲストでいらしていた大学教授の方が、ピッチの参加者に向かって熱く一喝しているのを聞いたんです。「渋谷の一等地でプレゼンする機会をもらうのが、どれだけすごいことか分かってる?毎日この場所を開けて、問いに向き合う環境を整えてくれる人たちがいる。そういうサポートの中で君たちは、世界を変えようとしてるんだよ!」
それを後ろで聞きながら、大泣きしてしまって。「私は今、世界を変えちゃうかもしれない人たちと関わらせてもらっているんだ」と気づいた瞬間でした。私が会員さんに話しかけて元気になってもらえたら、その方の今日の仕事が捗って、明日のピッチがうまくいって、バタフライエフェクトのように、いつか大きなムーブメントに変わるのかもしれない。
そう考えたら、ゴミ拾いも机拭きも全部意味のあることだから。細かな作業も続けてて良かったなと思えたし、これからも全力で会員さんのサポートができたらと思っています。
ギリシャから哲学が生まれたように、QWSから歴史を創る
── みなさんは、未来のQWSをどうしていきたいですか?
池原:問いがあること、その先にイノベーションがあること。それだけは変わらないけど、それ以外はすべて変わっていくんじゃないかと思います。変わりつづけることを楽しんでいる方が正常な気がするから、何十年後もみんなで楽しみながら右往左往してたら面白いなあと思いますね。
髙木:この5年でもたくさんの変化があって、私もいまだに新しいことを覚えては改善する日々です(笑)。だからこそ飽きないで、ずっと続けられるのかもしれない。
池原:私の中では、QWSは施設というより “地域 ”みたいなイメージなんです。たとえば町内会だと、住民たちがお互いに心地よく過ごせるように、みんなが自分ごととしてルールを考えるじゃないですか。
QWSも運営の一存でルールを決めるのではなく、もっと会員さんを巻き込みながら、一緒に場を創っていきたいと思っています。
加藤:たしかに、QWSは町内会っぽさがあるよね。何かあったときにみんなで支え合うような、ヒューマンネットワークのインフラになりつつあると思います。
さらに言えば、もう少し開かれた場所になってもいいと思う。今は渋谷スクランブルスクエアというビルの中で完結していますが、ゆくゆくは渋谷の街、そして日本と、地域連携や施設間連携を目指していきたいです。
── 渋谷という街におけるQWSの役割は、どのようにお考えですか?
加藤:現時点では、0から1を作るまでがQWSの役割です。1に育った取り組みは、10や100になるために、ほかの施設やオフィスに放たれていく。
その “放ち先 ”との連携を、もっと強化していきたいですね。海外の大学だと、大学を出て成長した人たちが寄付者として戻ってくる文化もあります。渋谷という街においても、成長と挑戦が循環する経済圏を創っていきたいと思っています。
── 長期的なスパンで、価値の循環を創っていくということですね。
加藤:はい。ギリシャの広場から哲学が生まれたのと同じように、QWSから歴史を創りたいんです。我々は哲学の系譜の上で問いを立てて、現代に新しい “神殿 ”を築いているようなものなので。
折しも、今は100年に一度の渋谷再開発が進んでいる恵まれたタイミングです。僕が死んだ後に「あの頃、問いを考える人たちが渋谷に集まり出してね……」と、史実として語られていたらすごくいいですよね。突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、今のQWSのメンバーとなら本当にできる気がするんですよ。まあ、歴史に残らないたくさんの泥臭い有象無象もあるんですけど(笑)。それすらも楽しみながら、次の5年、10年、100年を突き進んでいきたいです。
加藤 翼
髙木 香純
髙木 香純
2019年のオープン当初より、SHIBUYA QWS に コミュニケーターとして参画。
池原 瑠花
池原 瑠花
2021年より、SHIBUYAQWSにコミュニケーターとして参画。