【商品開発の裏側】Z世代の顧客インサイト、どう探るか

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商品開発の第一ステップとして、潜在顧客へのヒアリングを重ね、そのインサイトを探ることは欠かせない。しかし、そのターゲットが「Z世代」の場合はどうだろう。
若者のトレンドは移り変わりが激しいのはもちろん、企業内にZ世代がいないケースも多い。 Z世代の特性やニーズを探ろうとしても捉えどころがなく、その道は難儀を極めるのではないだろうか。
そんなZ世代向けの新商品を生み出し、好調なスタートを切っているのが食品メーカーの「味の素(株)」。お粥をテーマにしたZ世代向けの新商品「粥粥好日」の期間限定販売を株式会社ドットミーと共に実現させ、好調に完売。現在は商品の更なる改良に邁進している。

味の素(株)の新商品「粥粥好日」のクリエイティブ。

味の素(株)は、Z世代のインサイトをどのように読み解き、商品の形に昇華させたのか。
「粥粥好日」の開発をリードした味の素 (株)Z世代事業創造グループの齋藤仁氏と玉置翔氏に、Z世代に向けた新商品開発のヒントを聞いた。

執筆:シンドウサクラ 撮影:小池大介 デザイン:吉山理沙 編集:金井明日香
(こちらの記事は2022/9/29に公開された、NewsPicks Brand Design制作記事の転載となります)

味の素(株)が「Z世代向け」の理由は?

── Z世代事業創造グループ。老舗企業のイメージがある味の素(株)に、こんな部門があるとは知りませんでした。

齋藤 そうですよね。Z世代事業創造グループは、若者世代向けの新規事業開発を行う専属部門。2021年に新設されました。

味の素(株)はご存じの通り、「味の素®」や「ほんだし®」など、料理の際に使用する製品を販売しています。

ですが大学生や新社会人などの若年層は、料理をする機会が比較的少なく、当社製品への接点が少ないとの課題意識がありました。

そこで、若い世代の方々にも当社を身近に感じていただきたい、若年層のより良い食生活に貢献したいとの思いで立ち上げたのが、この専任組織なのです。

玉置 部門は立ち上げたものの、これまで味の素(株)は、大規模かつ定量的な調査をもとにした、いわゆる“マス向け”の開発手法が主流でした。

一方で“新しい価値観を持つ世代のインサイトに切り込む”という試みには慣れておらず、若い世代が食に対してどんな悩みを抱えているかの解像度も低かった。

だからこそ、まずはZ世代の方々に話を聞いて、どんな食生活を送っているのかを徹底的にヒアリングすることから始めようと考えたのです。

 

“出島”を作って人と出会う

── とはいえ、企業が高校生や大学生をはじめとした若者と接点を持つのは簡単ではありません。どのようにZ世代へのヒアリングを進めたのですか?

齋藤 まず検討したのは、「どこで活動するか」という活動拠点についてでした。

自社のオフィスに閉じこもっていては、特定の人としか会話できません。

ですが、シェアオフィスを“出島”として使えば、社外の多様な人に偶発的に出会えるし、意見を聞ける。そこからアイデアのヒントが生まれるかもしれないと考えたからです。

いくつかのシェアオフィスを見学する中で出会ったのが、共創施設のSHIBUYA QWS(以下QWS)でした。

最も魅力を感じたのは、QWSの空間は、仕切りや個室がないこと。会員の間で、ひっきりなしに会話や交流が生まれているのが印象的でした。

さらにQWSは6つの大学と連携しているほか、QWSコーポレートメンバーとして「ゼロ高等学院」が入会していたり、若い世代が所属するプロジェクトが多く活動していたりと、Z世代と関われる機会が圧倒的に多い。

パソコンに向かって考えるだけではなく、その場で当事者の意見を聞きながら事業を創れることに大きな価値を感じ、入会を決めました。

QWSの活動スペースの様子。仕切りはなく、会員同士の交流が生まれやすい設計になっている。

── 実際のヒアリングはどのように進めたのでしょうか?

「とにかくヒアリングをする期間」として、2ヶ月ほど設けました。

そこで、デスクトップリサーチはもちろんですが、QWSの内外で高校生や大学生に食生活や食の悩みについて話を聞いたり、先進的な価値観を持っている方々にインタビューを実施したりしました。

この期間は大体週に3、4回はQWSを訪れて、ヒアリングを重ねていましたね。

QWSはコミュニケーションが取りやすいとは言っても、やはり最初はどのように他の会員さんに話しかければいいかわからなかった。

そこでコミュニケーター(注1)さんに、私たちの取り組みと接点がありそうな方を紹介していただいていました。

注1:コミュニケーターとは、QWSで会員同士のコミュニケーションを促進するほか、会員の壁打ち相手になるなど会員活動を支援するスタッフのこと。

玉置 またQWSが開催している「QWS Question Storming」(注2)というプロジェクトを利用して、オンラインワークショップも行いました。

若者、Z世代は食と健康にどのような課題を感じているのだろう?」というテーマを設定して、約20名の方とのディスカッションを行いました。

注2:QWSに所属する企業がテーマオーナーとなり、「問い」を持ち込めるワークショップ。QWS会員や一般の方と一緒に、問いや課題を議論し、深められるイベント。

一般的に、開発会社の社員だけで新商品のアイデアを出そうとすると、自社が持っている知見や前提条件に縛られて、自由な発想をしづらい。

ですがこのワークショップでは、本当に多様な意見をいただけて。

その中で特に印象的だったのが、「罪悪感」という言葉でした。

「今日も朝ごはんを抜いてしまった」「忙しいからと言って、またジャンクフードを食べてしまった」といったシチュエーションで、食に関する罪悪感を抱えている人が結構いらっしゃるとわかったんです。

 

齋藤 ギルトフリー(罪悪感がない)だけど、満足感のある食べ物って何だろう。そう考え始めて辿り着いたのが、「お粥」のコンセプト。

日本では病気の時に食べるものというイメージが圧倒的に強いですが、アジア圏では様々なアレンジを加えて、美味しくて健康的な食事として日常的に親しまれています。

そのお粥のポテンシャルを活かせれば、Z世代の食の悩みにアプローチできる商品を開発できるのではないか。そんな議論を経て、「粥粥好日」のコンセプトが定まっていったんです。

完成した「粥粥好日」のイメージ。プロジェクト開始から1年足らずというスピードで、テスト販売にこぎつけた。

安心せずに、検証を重ねる

── 商品のコンセプトが定まった後も、本当にそれがターゲット層に響くのか、検証を重ねる必要がありますよね。

齋藤 ええ、そうなんです。商品コンセプトが定まると、多少なりとも安心してしまうもの。

ですが、そこで自信を持ちすぎずPDCAを回し続けることで、本当に顧客が求める商品に近づけられると思います。

だからこそ、開発途中の試作品の段階から、周りの人たちにどんどん試してもらうことを心がけました。

QWSの会員さんなどにコンセプトやデザインを見ていただいたり、試作品を食べて意見をいただいたりした上で、何度もブラッシュアップを重ねました。

ターゲット層へのヒアリングを重ね、パッケージは食品には珍しいグリーンに。お粥のイメージのアップデートを目指す。

さらに発売の3ヶ月前の今年3月に、QWS会員向けのカフェ「CAFE HInT(カフェヒント)」で、実験的に「粥粥好日」を提供させてもらったんです。

そこで食べていただいた感想を直接聞くのはもちろん、Webでのアンケートや簡単な雑談会も設定して、意見を集めました。

それこそ味については、日常的に食べるならお米の硬さはどれくらいが良いとか、しつこいくらい細かく聞きましたね(笑)。

売り方について特に参考になったのは、「忙しい昼や残業の夜にオフィスで買えたら嬉しい」という意見。それをヒントに、6月には実際にオフィスでのテスト販売をスタートさせました。

CAFE HInTでのテスト販売の様子。

今年6月には、渋谷スクランブルスクエアでのポップアップ販売と、ECサイトでの販売を行い、予想を上回る好評をいただきました。

現在は一旦販売を停止し、お客様から得たフィードバックをもとに、改良を重ねているところです。

課題に出会い、実証実験へ

── 新商品開発のために入居したQWSでの出会いをきっかけに、大分県の中津市ともプロジェクトを実施したとか。どういうきっかけがあったのでしょうか?

玉置 QWSで「粥粥好日」の商品開発に取り組む中で、Z世代の方々とだけとお話ししていたわけではないんです。

コミュニケーターさんに繋いでいただき、40ほどのプロジェクトとお話をしながら、協業の機会がないか話し合ったり、プロジェクトの進め方のヒントをもらったりしていました。

その一環で、支援者コミュニティ「QWSコモンズ」の金子和夫さんが、QWS内で中津市と行っていたイベントに参加。

そこでは中津耶馬渓観光協会が「未収穫作物活用方法」をテーマにワークショップをしており、問題なく食べられる野菜が、農家の高齢化などの要因で収穫されないまま、無駄になっているとの課題を知りました。

食に関わる企業として何かできないかと考え、未収穫農作物を収穫し、味の素(株)の製品と一緒に販売する案を提案。QWSで活動していた中津市の職員の方々と一緒に、取り組むことが決まったのです。

さらに若者が参加できれば、農業に触れるという貴重な体験になるのではないか。そこで立命館アジア太平洋大学の学生らに声をかけました。

実際に今年4月から5月にかけて学生と一緒に中津市を訪れ、100本を超えるタケノコを収穫、水煮に加工、販売するという一連の取り組みを行ったのです。

齋藤 このプロジェクトのポイントは、最終的にはこのタケノコをスーパーで販売することで、ボランティアではなく、持続可能な取り組みとして成り立つことなんです。

実際にタケノコの水煮は、味の素(株)とお付き合いのあるスーパーにお声がけして、「Cook Do®」青椒肉絲用とあわせて販売しました。

似たようなプロジェクトでも、自治体が子どもや学生を呼んで、体験して終わりというものが多い。そうすると自治体の持ち出しが多くなってしまい、持続性が低いんです。

玉置 結果的に、販売したスーパーで通常タケノコは週に1個ほどしか売れないところ、2日間で100個ほどが完売しました。

もし味の素(株)だけがこのプロジェクトに取り組んでも、ここまで消費者には届かなかった。

自治体も地域の方も、学生も一緒になって取り組んだことで、消費者の方に購入いただけるストーリーを作れたのだと思います。

今後もタケノコ収穫の取り組みは進めていくつもりですが、「今年は2倍のタケノコが売れました!」というような成果には、固執しすぎないようにしたい。

やはり起点には課題がまずあって、それを解決することが何よりも重要。手段が目的化しては本末転倒です。

この取り組みの発端もQWSですが、QWSには個人や企業から自治体まで、多様な人たちが持つ問いや課題が溢れています。そういった問いに出会うことで、「自分たちには何ができるだろう」と、いつの間にか頭が動き始めている。

そんなプロセスを通して、新規事業や新しい商品開発の種が生まれていくのではないかと感じます。

今後もQWSでの活動を通して、様々なステークホルダーと繋がり、新しい価値を生み出していきたいと思います。

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